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2010年1月 6日 (水)

「太郎」は「たろう」か

またまた浦島ですが、浦島太郎の「太郎」は一姫二太郎のように普通名詞としても使えるし、固有名詞にもなります。ただし、みんな太郎だと区別がつかないので、源氏の太郎なら源太(郎)、藤原氏の次男なら藤次郎、平氏の三男なら平三郎のようになって、いろいろバリエーションが生まれます。「岡崎二郎三郎」「茶屋四郎次郎」なんてふざけたのもありました。後には官職の「左衛門」「兵衛」なども人名になっています。この系統は基本的には音読みになりますが、もう一つ訓読み系の名前もあり、両方名乗る場合には「木下藤吉郎秀吉」のようになります。
厄介なのは訓読み系で、どう読むのかが難しい。人名のみで使う訓読みというのもあって、さらに困ります。「和」が「かず」、「知」が「とも」というのが普通なので、三浦知良は「ともよし」だと思っていたら「かずよし」だし、「植村直己」は「なおき」だろうと思ったら「なおみ」です。「巳」なら「み」で納得ですが、「己」は「おのれ」じゃろが、とつっこみを入れたくなります。
音読みのほうでも、「桑田佳祐」は「ケイスケ」ではなく「カスケ」と読むべきだという意見がありました。また、「颯」は「ソウ」と読みます。これも、「颯爽」と書いて「さっそう」じゃないか、と言われると「あれ?」と思いますが、まちがってはいません。
名前に使える字は、ひらがな・カタカナ・常用漢字プラス人名用漢字なので、ローマ字や算用数字は使えません。したがって、残念ながら子どもの名前を「R-118」とつけることはできないのですね。ところが、たとえば常用漢字さえ使っていれば読みはどうでもよいらしいのです。
ということは「太郎」と書いて「しなののくにのじゅうにんげんたざえもんのじょうみなもとのかねてつ」と読んだってかまわないということになるわけです(だれも読んでくれるはずはありませんが)。「耕平」をじつは「ライオンまる」と読むということをだれが知っているでしょう、いやだれも知らない(反語)。
子どもに「悪魔」とつけようとして「事件」になったこともありました。お釈迦さまが息子に「悪魔」と名付けたと言われているので先例はあったのですが。受け付ける役所の人が個人的な口出しをするのもどうかと思います。江戸家猫八という芸人が「八」の字が好きなので、長男に「八郎」とつけて届けようとしたら、「太郎」とすべきだとか「せめて八郎太にしろ」とか言ったらしい。大きなお世話だ、バカヤロー、子どもに好きな名前をつけるのは親の権利だ、と思うのも当然です。ただし、使いたくない漢字というのはありますがね。「傷」とか「腸」とか「墓」「呪」「痔」「糞」……。「死」なんて最も使えない字のはずですが、俳人の「秋元不死男」のような思いがけない荒技もあります(本名は不二雄)。でも、やはり「かっこいい」漢字を使いたくなるのが人情でしょう。「翔」なんて、たしかにドラマの主人公っぽい字です。
昨年の命名ベストテンの男子1位は「大翔」で「ひろと、やまと、はると」と読ませるそうですが、……うーん、読めない。6位の「陽斗」の「やまと」もつらい。ちなみに9位の「颯太」「颯真」は、やはりそれぞれ「そうた」「そうま」です。女の子の2位「美咲」も「みく」とは気がつきませんでした。10位の「愛莉」を「あいり」と読むのは納得ですが、「めもり」と読めと言われても……。その他、「輝星」の「らいと」、「航海」の「せいる」は言われればなるほどですが、「愛羽」で「あろは」、「会心」で「えこ」はどうでしょう。「騎士」はなんとか読めますが、「七音」「一二三」は……。

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