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2010年6月30日 (水)

姓は安藤、名は慶三

戦時中、英語は敵性語であるとして無理やり日本語に言いかえたという話があります。法律で決めたりしたのではなく、「自主規制」だったということですが、当時のマスコミ(新聞)が相当あおったような気配もあります。そのころもやはり「ヒステリック」になってさけんでいた人がいるのでしょうね。

有名なところでは野球の用語の言いかえですが、実際はどうだったのでしょう。「ストライク」が「よし」で「ボール」は「だめ」と言ったという話を聞いたこともあるし、「いい球」「悪い球」と言ったという説も聞いたことがあります。「アウト」は「ひけ」だったのでしょうか、それとも「おまえはすでに死んでいる」だったのでしょうか。考えてみれば、「巨人」というチームの名前は変ですね。「阪神」は球団名が「阪神」で「タイガース」は愛称(?)なのでしょうが、続けて「阪神タイガース」と言います。ところが「巨人」は、続けて言うときには「読売ジャイアンツ」なのに漢字だけで言うときには「巨人」になるのは「わがまま」だなあ。たまに「読売巨人軍」と言うアナウンサーもいるし。このあたりが戦時中の影響が残っているところなのでしょうか。これにならえば「阪神タイガース」は「阪神猛虎軍」だし、漢字で言うときには「猛虎」になるはずですが……。

現実には、いくらなんでも英語が禁止になったわけではないでしょうから、皇紀2600年にできた零式戦闘機は「れい戦」ではなく「ゼロ戦」と呼ばれたのでしょう。いや、ひょっとして、これは海軍だからかな。陸軍ではカレーが「辛み入り汁かけ飯」になったのに、海軍は「海軍カレー」でしょ。陸軍に比べて、ちょっとは開明的だったのかもしれない。どっちにしても、サイダーが「噴出水」、コロッケが「油揚げ肉饅頭」になったというのはかなしいし、ほんとかどうかは知らないけど、バイオリンが「ひょうたん型西洋三味線」、サクソフォンが「金属製曲がり尺八」というのはなあ。パールハーバーが「真珠湾」になったのも同じ流れですかね。

ドイツ語はどうだったのでしょうか。同盟を結んでいるのなら「敵性語」になるはずはないのですが、「ドレミ」は「イロハ」になっていますね。これは本来イタリアから来たものでしょう。ま、そんなことを言い出すと、じつは漢字が使えなかったはずなんですが。なにしろ漢字は中国から輸入したものですから、立派な「敵性語」です。そういう理屈が通じないのはやはり「ヒステリック」だったのでしょうね。外来語の中には、日本語で言えないものがたくさんあります。「テレビ」なんかどうなるんでしょう。将来、もしまたアメリカと戦うようなことがあったら、「電気紙芝居」とか言うのかなあ。

固有名詞も変えさせられたようですね。学校名でも「フェリス」が「山手」かなにかに変えさせられたとか聞いたことがあります。芸能人の名前でも、外国風の名前はだめになって、漫才師の「AスケBスケ」という人たちも「英助美助」に変えさせられたとか。ロシア系の大投手スタルヒンも「須田博」に変えさせられましたが、国籍が変わったわけではなかったと思います。

では、現在、外国人が日本国籍をとったら名前の表記はどうなるのでしょうか。漢字かひらがな・カタカナを使うことになるのでしょうが、中国系の人では、使える漢字の制限にひっかかったら自分の元の名前を変えなければならないのかなあ。ギタリストのクロード・チアリは「智有蔵上人」、苗字と名前の順がひっくり返るのですね。ラモスは「ラモス瑠偉」になったようですが、どちらが苗字? だいたい、こういうパターンは「ジョージ秋山」「マイク真木」「アントニオ猪木」(うーん、あげる例が古すぎ)のように、カタカナ部分が名前で先に来て、あとの漢字の部分が苗字ですね。「ジャイアント馬場」は…「ジャイアント」が名前じゃないし、「横山ノック」は…全然ちがうか。「パパイヤ鈴木」「ウド鈴木」「ルー大柴」は? そういえば、むかし「キャロライン洋子」という人がテレビに出てきたときに、どっちも名前やがな、苗字はどこに行ったんじゃい、と思ったことがあります。「マークス寿子」も同じでしょうか?

最近は苗字なしで、下の名前のみの芸能人がやたら多くなってきています。桂米助という落語家が「ヨネスケ」と名乗ってひとの家の台所に突撃レポート、とかやっていたことに感動して、鈴木一朗くんが「イチロー」という登録名にした途端、すごい活躍をしはじめたことは有名ですね。ほんまかいなー。ひょっとして、「きたろう」に感動したのだったかな。でも、「イチロー」が活躍したからといって、それにあやかろうとしてよく似た名前をつけると二番煎じになります。なんか、いじましい感じが漂ってかなしくなるのは私だけ? 「○香」とか「○雪」とか「○秋」とか、男でも「瑛○」とか、こういう芸名も、ムッと来るという人がいます。苗字なしということは、「私はどこにも所属しない、一個人としての『○香』よ」ということなのでしょうが、それだけに、「なにィ、○香? どこの○香や、あちこちに○香はおるのに、天下に○香はおのれだけと宣言しとるような偉そうな態度はなんじゃい、おまえは何様や」と思うのでしょう。「サ○カ」とか「イ○ル」などは親が離婚したので、どっちの苗字を名乗るべきかで悩んだのでしょうか? それとも、ひょっとして、めんどくさいだけ? 時の人として「蓮舫」さんがいますが、苗字が「蓮」で名前が「舫」、というわけではないようですね。

苗字なしの名前だけというのは、一見かっこよく思えるのでしょう。たしかに、最初にした人はかっこよかったのでしょうが、真似するとやはりいじましくていけません。要するにペットの犬の名前が「ジョン」というのとおんなじでっか、と言いたくなります。と思ってたら、「ミ○ラ」とか苗字だけという人もいることに気づいてしまいました。消えてしまったけど「は○わ」もそうか。「タ○リ」は? うーん。

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