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2010年7月14日 (水)

小学生のときに読んだ本

西川が小学生のときに読んだ本で印象に残っているものを紹介する新シリーズスタート!

べつにおすすめというわけではありません! 西川の印象に残っているだけ!

おまけに記憶はあやふや!

本当にシリーズ化できるのかまったく自信なし!!

『セキレイの歌』 小笠原昭夫・ 金尾恵子

これはですね、セキレイという鳥の生態を観察して、絵本にしたものですね。小学校3・4年生向けでしょうか。

物語仕立てになっていて、チビというセキレイが巣立つところから、何度かの子育てをするところまでを描いていたと思います。

絵がなかなかきれいで、いまだにヒヨドリとムクドリの区別もつかない僕ですが、セキレイだけわかるのはこの本のおかげです。

この本が印象に残っているのは、とても悲しい場面があったからだと思います。

チビのヒナがヘビに食べられてしまうのです。するするとヘビが近づいてくるので、チビが果敢にヘビに攻撃をしかけるのですが、残念ながらヒナが一羽呑み込まれてしまいます。

悲しいのは、そのあとです。ヘビが去ったあと、チビとメス鳥(名前は忘れてしまいました)は何事もなかったかのように、ヒナの世話を続けるのです。

数が数えられないので、一羽へってもわからない、という説明が載っていました。

この理不尽な悲しみの正体がわからない、的確に言葉にすることができないため、何だかとても苦しかったのをおぼえています。

単に、ヒナが死んでしまうから悲しいというのではないのです。

で、この記事を書くにあたって、あらためて考えてみました。

そこで思い出したのが、高校生か大学一年のときに読んだ、高橋源一郎さんの『さようなら、ギャングたち』です。

この本の中で、主人公が「キャラウェイ」という名の娘を亡くす場面があります。

確か、何月何日にお宅のお嬢さんは亡くなりますという死亡通知が役所から届き、主人公は、まだ生きている幼いキャラウェイを背負って、子ども用の墓地まで連れて行くのです。そういう決まりというかシステムになっているんです。

おんぶしたキャラウェイとお話をしながらとぼとぼ歩いていくところが悲しくてたまらない。

この場面を思い出しました。一見、全然ちがうんですが、悲しみの感触が似ているような気がします。

これはたぶん、「大切なものの死が適正な重みで受け取られていない」ことに対する悲しみなんじゃないですかね。

ここでさらに思い出すのが、詩人である石原吉郎が書いた「三つの集約」という文章です。

「私は、広島告発の背後に、『一人や二人が死んだのではない。それも一瞬のうちに。』という発想があることに、つよい反発や危惧をもつ。」

「『一人や二人』のその一人こそ広島の原点である。年のひとめぐりを待ちかねて、灯籠を水へ流す人たちは、それぞれに一人の魂の行くえを見とどけようと願う人びとではないのか。」

「一人の死を置きざりにしたこと。いまなお、置きざりにしつづけていること。大量殺戮のなかのひとりの重さを抹殺してきたこと。これが、戦後へ生きのびた私たちの最大の罪である。」

「適正な重み」という僕の表現はもちろん稚拙ですが、こうしてみると、石原吉郎の文章を読んでいたからこそ出てきた言葉のように自分では感じます。

さて。

『セキレイの歌』の場合には、大切なものの死であるにもかかわらず、それが0の重みでしか受け取られていないということが、小学生の僕にとって衝撃だったのだと思います。もちろん誰が悪いというのではなく、自然の摂理としてそうなっているわけです。だから、仕方がないわけです。仕方がないということが、さらに気持ちを重くします。

『さようなら、ギャングたち』の場合には、大切なものの死が(あるいはキャラウェイにとっては自分自身の死が)、受けとめることのできる限界をはるかに超えて重く重くのしかかっています。これは、その社会のシステムがそのようになってしまっているわけです。だから、やはり個人の力でどうにかすることはできません。

昔から人は死んできたわけで、大切なものの死(あるいは自分自身の死)は誰にとっても避けられない事態なのですが、せめて自然な、適正な重みで受けとめることができるべきだと思います。そうできないとき、それが理不尽さとして感じられるような気がします。

と、そこでまたまた思い出しました。

友人の息子さんが教えてくれた絵本ですが、

『わすれられないおくりもの』 スーザン・バーレイ

はその点心あたたまるといいますか、ええ感じの絵本になっていると思います。

(西川)

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