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2011年4月 9日 (土)

ショートショートの日々

小学校5年生のとき。

星 新一氏の小説をむさぼり読んでいました。

小学生である自分が文庫本を読むということ自体に「かっこよさ」を感じていたのもあるのですが、

星氏の持つ世界観に魅力を感じていたのも大きいようです。

「ショートショート」といえば星新一と、「代名詞」にもなっていますし、星新一に影響を受けた作家も少なからずいます。

私はというと、その「透明な」文体にひかれたという記憶があります。

学校の図書館にある、「推薦図書的」な本には、なんだか「友情」だの「努力」だのを植え付けようとするおしつけがましさがあって、どうにも鼻持ちならない感じがしていて、星作品のブラックな不健全なにおいのする作風が気に入ったものです。

なんとなく、読んでいることを母親に知られたくなく、こっそり読んでいました。中学生になってからは堂々とコレクションをしていましたが。

よくもまあ、こんなにたくさんのストーリーを思いつくことができるものだと感心しました。

無理にでも読者の予想を裏切ろうとしているようなどんでん返しに、子供心にも、作者がかわいく思えた、というのは事実なのですが、何とも生意気な感想でした。

私の好きな作品を一つ挙げるのは難しいのですが、「鍵」という題名の作品があります。

あまりSF的ではなく、宇宙人も悪魔も出てきません。

一人の男が、異国風の鍵を拾い、その鍵に合う鍵穴を探し求めて、人知れずその鍵を持ち歩いて鍵穴に差し込んでみる。旅先でもその鍵の合う扉や箱を探し続けていくが、まったく見つからない。もはや人生の目的が鍵穴探しのようになる。

 男は、人生の最後に、一つのアイディアを思いつく。

それは、その鍵に合う錠のついた扉を作らせることだった。その錠が完成し、死期に近づいた男は、その鍵を差し込み、扉を開ける。

ここまで書いてしまうと読む楽しみがなくなるので、結末は書かないことにします。

最後の「男」のセリフに、しびれてしまうわけです。なんて言うか、ハードボイルドな感じです。

こういう決めぜりふを残して死にたいよな、なんてことを中学生に思わせる作品でした。

星新一の作品には「ディテール」というものが清々しく排除されていて、その男がどのような鍵穴探しの人生を送ったかは事細かに書かれていません。だからこそ、自分の人生と重ね合わせたり(といっても中学生程度の人生ではなく、想像ですね)、空想を広げたりができる余地が残されるのですが、小学生の時の読後感と、中学生になってからの読後感が、違っていることにも安心感と寂しさの両方を味わいました。

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