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2012年9月16日 (日)

かあちゃんはモンローです

「知らんけど」というのは、すべてを台無しにする力ぬけフレーズです。関西人、とくにおばちゃんがよく使います。「あんた、それ絶対まちがいないで、知らんけど」とか「フランシスコ・ザビエルが首につけてんのんシャンプーハットやて、知らんけど」とか「知らんけどとか言う人なんかおらんやんな、知らんけど」とか、よく言うとるようです、知らんけど。推理小説の最後で探偵が言います。「おまえが犯人やろ、知らんけど。」責任丸投げの高田純次みたいな破壊力がありますな。

で、前回の続きですけど、実態を知って、えっ、あの人ってそうなん、と思うことがよくあります。ムンクの絵はすごいと言いますが、あの人は精神病院にはいってて、その病気はまわりの情景が歪んで見えるようなものだったらしい。ということは、あの絵はリアルな具象画っていうことになるんでしょうか、知らんけど。裏情報を知ると変な感じになることもあります。サマセット・モームの『月と六ペンス』なんて、ゴーギャンらしき人物を追いかけるだけの妙ちくりんな小説ですが、なんとモームの本職は諜報員です。ということは例のMI6ですな。イギリス情報局、ミリタリー・インテリジェンス・セクション6です。かっこいいですな。今は名前が変わってしまったらしいですけど。モームは、はげしい諜報活動で体をこわして療養中にこの作品を書いたとか。グレアム・グリーンも所属してたらしいけど、意外性は少ないし、007のイアン・フレミングは当然でしょう。でも言うても諜報員です。スパイですぜ。「00」は殺しのライセンスです。「THE MOON AND SIXPENCE」の中にも「ダブルオー」がはいってます。ひょっとして、モームのコードナンバーは006? サイボーグなら中国系の張々湖(チャンチャンコ)、口から火をはいてましたが、なんのこっちゃわからんやろな。

作品と作者の実像が結びつかないことがよくあるのは当然でしょう。ハードボイルド作家が軟弱であったり、耽美的な作品を書く人がマンガみたいな顔をしていたり、歴史小説の大家が大木凡人みたいであったりしてもおどろきません。悪役を演じる人は、憎らしく思ってもらえれば本望とか言って、とことん憎たらしく見せるのですが、じつは善人だとはよく聞くことです。でも、顔はどう見ても「悪人づら」をしています。人は見かけによらないものであるなら、善人や正義の味方を演じる人の真の姿はどうなんでしょう。じつは悪人? お笑い系の人も舞台を降りると無口であったり、普段はおもしろさのかけらもないという人もいるそうですが、素ではなく芸の力だけで笑わせるというのはすごい。しかし、「知らんけど」を連発するような大阪人はそういうのはあまり好きではないようです。舞台の外で出会った芸人にも「ギャグ」を要求します。裏表があるのをきらうのでしょうが、芸人としては疲れます。プライベートなしです。

道行く大阪人のほとんどは、指をピストルのようにしてバーンと言われると、「やられたー」とか言って大袈裟に倒れるという高尚な実験をテレビでやってました。素人がつねに芸人であるという不思議な風土です。話をしていても必ず、「で、オチは?」と言われます。希学園の国語イベントでも、「漢字の征服」「語句の制覇」にひきつづいて「文法の○○」を作ろう、ということになって、ネーミングどうする? というと「制圧」とか「攻略」とか勇ましいのが出てきますが、みんな心の中では「語句のセーハ」の次に文法でヒーコラ言わせるんやから「文法のヒーハー」に決まっとるやんけ、とつぶやいている声が聞こえきたのは気のせいか。「目ェ充血してるで」と言われて、たしかに痛かったりするのに、「そんなふうにめーまっかー」と返す、かなしき大阪人。だじゃれがすべっても、「ここ笑うとこよ、ここのがすと、あと笑うとこないよ」とかぶせてきます。「オレオレ詐欺」の電話がかかってきても、「あんた、だれ、太郎やろ」「うん、太郎」「太郎、どないしてん」とさんざん相手に話させておいてから、「あ、そや、うちとこの息子、三郎やった。あんた、まちがい電話やで」とか、「そうか、太郎、たいへんやったな。ほな、本人と変わるわな」「え?」息子がかわって「もしもし、俺も太郎やけど、あんたも俺か」というような遊びをせんとや生まれけん。

電話の詐欺は顔が見えませんが、詐欺師も見るからに詐欺師では商売にならんでしょう。英雄の顔はどうなんでしょう。見るからに英雄でしょうか。義経なんて、じつはブッサイクやったと言いますね。でも、神木隆之介にさせるんですね。滝沢義経の少年時代を演じたので二回目だそうです。国広富之や野村宏伸もやりました。菊之助と言ってたころの尾上菊五郎もやりましたが、蛭子能収はけっして演じません。塚地武雅も信頼役は許せても義経をしてはいけません。見ている人は、イメージとちがうとむかつくのですね。顔だけでなく声も同じで、むかしはマンガがアニメ化されたときの声がイメージとちがうと言って文句をつける人が多くいました。最近は少なくなったのかなあ。ドラえもんの声が変わったのはどうなんだろう。サザエさんのカツオの声が変わったときも文句を言ってる人がいました。どっちも見てないのでわかりませんが。丹下段平の出てくるCMがあります。何のCMか知らんけど。さすがにあの声は元の藤岡重慶とは全くちがうので、違和感があります。藤岡重慶さん、二十年ぐらい前になくなってるのでやむをえませんが、「やましたー」と言って、西郷輝彦をいじめる坂田軍曹という役がよかったです、知らんやろ。ルパン三世の声をやってた人が死んでしまったあとは、栗田貫一がものまねでやってましたね。山田康雄は、ルパン以外にはクリント・イーストウッドやジャン・ポール・ベルモンドの吹き替えもやってました。洋画の吹き替えの担当は固定化するのですね。アラン・ドロンと言えば野沢那智、この人はアル・パチーノとかダスティン・ホフマン、ジュリアーノ・ジェンマもやってました。ブルース・ウィリスもやってたような。『ボルサリーノ』では野沢がドロンをやって、山田康雄がジャン・ポール・ベルモンドを吹き替えたはずです。女優では、ブリジット・バルドーが小原乃梨子、マリリン・モンローが向井真理子、オードリー・ヘップバーンが池田昌子というように決まっていました。お子さんが学校の作文で「ぼくのお母さんはマリリン・モンローです」と書いたとかいうような話を永六輔の本で読んだ記憶があります、知らんけど。

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