« 俺が夕焼けだった頃 | メイン | 『国語の教え方・学び方』第2弾! »

2012年10月 2日 (火)

やきもの

山に行くと石が落ちています。山じゃなくても落ちてますが、山に落ちている石は、そこらへんに落ちている石よりも若干魅力的な気がします。持って帰りたくなりますが、歩いているのはたいがい国立公園内であるため、持って帰ることはできません。

昔から石が好きです。『おじゃる丸』に出てくる「かずま」みたいなもんです。小学生のころは旅行のたびにずしりと大量の石を持ち帰って、そのへんに転がしっぱなしにし、母親にうんざりされていましたし、授業を担当していない理科の先生と仲良くなり、そこらへんには落ちていない石をもらってうはうは喜んだりしていました。親戚にも石好きが知れ渡り、北海道のおばさんに黒曜石をもらったこともあります。

なぜそんなに石が好きだったのか? 子どものころはうまく言えませんでしたが、大人になって言葉にすることができるようになりました。質感と量感ですね。そこに惹かれます。

あるとき、業を煮やした母親にコレクションを処分されてしまってから、石集めはやめましたが、大人になってある日突然、陶磁器LOVEというかたちで再燃しました。

当時住んでいた枚方の駅前に、「ひこら」という、結構年輩のご夫婦が営んでらっしゃった陶磁器のお店があり、生活雑器と作家ものを半分ずつぐらい置いてありましたが、どれも趣味がよく、休みのたびにひやかしに行きました。ご主人が車で全国をまわり、自分の目で見て良いと思ったものを仕入れていらっしゃるということでした。べらぼうに高いものはなく、僕がちょっと何かを我慢すれば買えなくはないぐらいのものが多く、敷居が低くて素敵でした。商売がうまいのかへたなのか、備前焼の徳利がふたつ並べて置いてあり、片方は10,000円、なかなかしぶくて値段もまあ悪くないわけですが、その横にあるのが比較にならないぐらい良い。値段はついてませんが、素人目にもはっきりとわかる風格で、正直これを見てしまったらとなりの10,000円は買う気がしない。で、主人に値段をきくと、「300,000円!」桁がちがうのでした。当然、両方買えないわけです。並べ方まちがってるんじゃないかなーと思いました。

そういう人ってこの業界には結構いるんでしょうか。津山で油滴天目ばかり作っている雫浄光さんという作家を訪ねたときは、油滴天目がいかに難しいか、成功作といえるものは数えるほどしかない、といったことを延々と語り、奥から大事そうに「成功作」を出してきては見せてくれるわけですが、確かに凄い。神韻ただようといえば大げさかもしれませんが、このはったり臭いおっちゃんがよくもこんなものを・・・・・・と思わせるものばかりです。いくつか「成功作」を見せてくれたあとで、満足そうに、「成功作は売らないんだ。展示してるものは全部失敗作やな。それでよかったら、買っていって」

変な人でした。もしかしたら、「成功作」の値段をつり上げるためのテクニックだったのかもしれませんが、当然僕に買えるわけもないし、素直な性格なので、「成功作は売らない」という言葉を信じ、値段を聞きもしない僕でした。

伊賀焼の窯元で「忠央窯」というところがあり、秋野さんという方が作陶されています。昔よくうかがいましたが、この人も変わってました。伊賀焼のなかでも特にごつごつした土味の、難破船から引き上げたみたいな陶器を作られていますが、そのなかでも特にごつごつした香炉がひどく気に入って、「これください」と言ったら、「え、いいんでしゅか!?」と言われました。僕のほうがびっくりしました。

三田で磁器を焼いている奥村さんという方のアトリエにもちょくちょくうかがいました。行くと、いつも「ハチ」という犬がすごい勢いで吠え、その声で奥村さんが出てこられるんですが、突然うかがってもいやな顔ひとつせずにいろいろ作陶の話など聞かせてくれてありがたかったです。奥村さんが得意としておられるのは、辰砂です。「ひこら」のご主人が、「辰砂の発色にかけては奥村さんが日本一」とおっしゃっていましたが、ほんとうにそれはそれは美しい、ルビーのような赤い磁器を焼かれます。僕はこの辰砂の香炉を持っていますが(「ひこら」で年に一度の安売りのときにゲット)、「この辰砂の香炉は失敗も多くて、実は赤字なんです。・・・・・・まさにこの辰砂の色のような赤字」と悲しそうな表情で自嘲気味におっしゃっていたのが忘れられません。有名になればもっと高い値段がつけられるんだけれど、まだ無名だから、ということでした。でも、はっきり言って、もっと高い辰砂の器をいくつも見ましたけど、奥村さんのものほど美しい宝石紅は見たことないですけどね。なかなか理不尽な世界です。おかげで安く買えたので文句を言える筋合いではありませんが。

奥村さんのところでは実にいろいろなものをもらいました。まず、失敗作ですね。よく、ドラマなんかで焼き上がった作品が気に入らないとたたきつけて割る、みたいなシーンがありますが、そういうことはしません。ちゃんととってあります。だって、失敗作といっても、青磁の皿にちょこっと黒子がついているとかその程度なんです。「なんでこんなのがついちゃうのかなあ、もしかしてハチのやつがそばでぶるぶるからだ体を震わせてたからか?」なんておっしゃってましたが、もったいなくて割れないですよね。でも売り物にはなんない。で、私の出番です。「せっかく遠くから来てくれたから・・・・・・」とかいって結構くれちゃうんです。いやーもらったもらった。お家の畑でつくっている「オクラ」や「シシトウ」なんかもいただきました。おいしかったあ! 奥村さんはご主人も奥さんもほんとに優しかったです。長いあいだ行ってないけど元気かな?

失敗作といえば、越前焼の窯元、塩越窯でも香炉をいただきました! 白越不朝さんという僧侶兼陶芸家の方の窯ですが、ここも突然うかがったのに、とても親切にしてくださいました。穴窯を見せてもらいましたし。この香炉が実に良くてですね、伊賀焼の秋野さんの作品をもしのぐ、「難破船から引き上げた」感! どこが失敗なのかは、教えてもらわないとわかりませんでした。教えてもらえば確かに失敗作。でも、飾っておく分にはまず誰にもわからない。実にお得なのでした。

長いあいだ、窯元めぐりしてませんが、どれもこれも良い思い出です。

このブログについて

  • 希学園国語科講師によるブログです。
  • このブログの主な投稿者
    無題ドキュメント
    【名前】 西川 和人(国語科主管)
    【趣味】 なし

    【名前】 矢原 宏昭
    【趣味】 検討中

    【名前】 山下 正明
    【趣味】 読書

    【名前】 栗原 宣弘
    【趣味】 将棋

リンク