« 四天王は知ってんのう | メイン | 勉強の敵、マンガについて② »

2013年2月20日 (水)

勉強の敵、マンガについて

新年度がはじまってはやくも三週間がたとうとしていますね。

3月には合格祝賀会も行われます。

『Royal Nozomi Theatre』の座付き作者M.Yamashitaに合格祝賀会の劇は今年は何をやるんですかと訊くと、あの大ヒットアニメを下敷きにするということでした。海賊が主人公のやつですね。

フランスあたりだと、忍者が主人公の『ナルト』の方が人気があるそうですね。やはり忍者モノは堅いということでしょうか。しかし、僕にとって忍者といえば白土三平の「サスケ」「カムイ」なので、「ナルト」はなんだかなあ。あれが忍者?って感じです。日本史の教授も『サスケ』は良いと言ってましたよ。「中世特有の暗い雰囲気がよく出とる」。ちなみに『サスケ』のラストはご存じですか? めちゃくちゃ暗いんですよ。いや、サスケが死ぬわけではないんですが、なんともいえず痛切な気持ちになるラストでした。

さて。

僕が少年マンガを読んでいたのは大学生のときまでで、あとはほとんど読まなくなりましたが、たまにテレビで『●ンピース』や『ナルト』をなんとなはなしに見ていることはあります(最初から最後まで見る気にはさすがになれませんが)。そうすると、これは確かに少年マンガの王道であって、高校生ぐらいまでの子どもが見るのはよくわかるなあとは思うけれど、けっこうな大人がはまっているという話をきくと不思議です。

昔、『サルでもかけるマンガ教室』のなかで、少年マンガというのは結局「たたかい」をどう描くかにつきるのだと書かれていました。問題はその「たたかい」をどう描くかというところで、そこに作者の力量が出るわけです。僕がいちばんダメだなあと思うのは、「火事場のくそ力」パターン。敵にやられてやられて危機に陥った主人公がそこで「ぬおーっ」なんて叫んで「負けるわけにはいかねえんだ」などと吠えると、なぜか突然妙ちきりんな力が湧いてきて、敵を倒してしまうというパターンです。説得力がないでしょ? だったらはじめから「ぬおーっ」と言え、「ぬおーっ」と。『ワンピー●』はこれですね。本宮ひろしの『男一匹ガキ大将』なんかもそんな感じでした。でも、本宮ひろしのえらいところは、『硬派銀次郎』は最後にケンカに負けるんですよね。負けることで、はじめて大人になるんです。そういうことをかけるところが、本宮ひろしの天才的なところでした。一瞬の輝きでしたけど。

もうひとつありがちなのは、「特訓」ですね。これも『サルまん』に書かれていました。『ナルト』はこっちですね。がんばって特訓して勝利をおさめます。少なくとも勝つ根拠は示されているわけです。ただ、たたかい→敗北→特訓→勝利というプロセスをひたすらくり返すかたちになるので、飽きますし、いわゆる「ライバルのインフレ現象」を起こしやすくなります。『侍ジャイアンツ』なんて典型的なこれでした。特訓しては魔球を開発する、のくり返しです。ハイジャンプ魔球、エビぞりハイジャンプ、大回転魔球、分身魔球などなど、最後にはエビぞりハイジャンプ大回転分身魔球みたいなよくわからないワザを繰り出していましたが、さすがに当時の小学生のあいだでも、「あれってボークじゃね?」などという疑問が口にされていました。『ドラゴンボール』もそうでした。はじめはのほほんとした宝探し的なお話だったのに、とちゅうからはひたすら特訓してはたたかう話になっちゃいましたね。ああなるとつまんないです。ジャンプ系はどうしてもそうなりやすいようですね。『キン肉マン』だって、はじめはとにかく肩の力の抜けたギャグマンガでした。「屁のつっぱりはいらんですよ」という何が言いたいのかよくわからないギャグもよかった。それが、とちゅうから友情とたたかいのマンガになっちゃって。ただ、ジャンプはデザイン的な点で優れているマンガが多い気がします。『ストップ!! ひばりくん!』以来の伝統ですかね。鳥山明の絵も1コマ1コマがそのままイラストになりそうなぐらい美麗ですよね。『ワンピース』もその伝統を感じさせます。キャラクターが魅力的なのも人気の秘密でしょうね。はじめ、『ルパン三世』みたいだなと思いました。刀持ったやつと黒スーツのやつがいて。でも「たたかい」の描き方はいけてないと思います。 

必殺パターンは他にもあります。「覚醒」です。主人公は特に努力しないのですが、危機に陥ると突然「覚醒」し強くなってしまいます。なぜそんなに都合良く覚醒できるのか? その解答が「血統」です。主人公はなぜ敵に勝てたのか? こたえ:血統がいいから。というパターンです。そんなバカな!と思われるかもしれませんが、このパターンは実は多くて侮れないです。マンガではありませんが、ハリーポッターってこれですよね。『セーラームーン』も『プリキュア』もこれに近い。前世からの因縁というのも「血統」の一種といっていいですね。『仮面ライダー』の覚醒はたまたま変身ベルトを手に入れてしまうことによって起こることが多いみたいです。オーズは典型的にそうでした。主人公はプータローでしたもんね。まあ、内面に焦点が合わせられていてべつのおもしろさを追求していましたけど。『ナルト』は「血統」を前提とした「特訓」パターンと言っていいかもしれません。

この「血統」のバリエーションといえるのが、「家元」パターンです。「家元」という言い方はあまり適切ではありませんが、たとえば『北斗の拳』です。ケンシロウはなぜ勝つのか? 一子相伝の北斗神拳の正統だからです。『修羅の門』もこのパターンですね。なぜ主人公(名前は忘れました)は勝つのか? 陸奥円明流(だったっけ?)の継承者だからです。だから、陸奥円明流の分家にあたる不破円明流の継承者とたたかったときにも、最後には、陸奥円明流だけに伝わるヘンテコなというか反則な感じの必殺技を繰り出して勝利を収めてしまいます。

結局、これらのパターンに頼って「たたかい」が描かれてしまうのは、そういった勝利の理由付けが読者に対して説得力を持っていると、作者あるいは編集者が信じているからなんでしょうね。そして実際にそれでおもしろいと感じてくれる読者が多いからでしょうね。だから、冒頭に書いたように、子どもがおもしろがるのはわかるし、そもそも子ども対象だからってことで割り切れば文句なんかありません。ただ、なんで大人がおもしろがるかな~と思うだけです。少なくとも僕はつまんない。

この点、革命的だったのが最近大人気の『ジョジョの奇妙な冒険』ですね! 大学時代一緒に暮らしていた友人が荒木飛呂彦さんの大ファンだったので、連載一回めから週刊誌で読みました。『ジョジョ』も第1部は「特訓」あり「火事場のくそ力」ありで、少年マンガの王道をいってたわけですが、第2部あたりから様子が変わってきます。第2部の主人公はまだ特訓もしますし、血筋もいいのですが、それは勝利の主たる要因とはなりません。巧みな話術とはったりの上手さで危機をしのぎ勝ちをおさめるのです。これは新しかった。第3部にいたっては、特訓もなくなります。代わりにその後、「進化する悪役」というきわめて斬新な、衝撃的なアイデアが出現します。悪役なのに努力するんです。悪役なのに「恐怖を克服しなければならない」などと考えて誠実に努力し成長しちゃうんです。そんなのありか?と思いました。ではそんな人間的にも超一流の(?)悪役に主人公はどうやって勝利するのか? 基本的には「工夫」です。知恵をしぼって工夫して勝ちをおさめるのです。作者は苦しいだろうなあと思います。ハードルが高いでしょう? 「ぬおーっ」と唸って、「仲間がなんたらかんたら」と叫べば勝てるなんて簡単な筋立てじゃないんです。ほんとうによくがんばっているなあと思います。

たたかいのドラマは悪役が魅力的じゃないとつまらないですよね。かっこいい敵役といえば『ガンダム』の「シャア」が頂点になるんでしょうか。僕はあまり知らないのですが。その点、『ジョジョ』の努力する悪役、というのは実に良い目のつけどころでした。『バビル2世』の悪役ヨミもなかなか魅力的でした。あと一歩でバビル2世を倒せるというところまで追いつめておきながら、部下を守るために撤退する場面があって、横山光輝ってすげえな!と感心したものです。そうですよね、そんな上司でなかったら、部下が命がけでついてくるはずがありません。その点、悪の描き方にはまだまだ開発の余地がありそうです。

などと、少年マンガについて熱く語っておきながらこんなことを言うのはなんですが、やはり、「マンガ」と「勉強」は両立するか?という問題について考察せねばなりますまい。ここでは、歴史マンガやことわざマンガなど、蘊蓄系マンガは考察の対象から外します。

文章読解の力をつけるうえで、マンガはプラスかマイナスか?

プラスであるにせよマイナスであるにせよ、文章読解にマンガが影響するとすれば、『イメージ化』の領域のはずです。

読解問題を解く、というのは、本来、【文章を読む】→【頭のなかにイメージを作る】→【イメージを言語化する】という過程のはずです。イメージを作らずに、文章をよく理解できないまま本文中の表現を加工して答えを作る場合(作れる場合)もありますが、そういう機械的な編集作業では答えられない問題も入試では多多出題されます。いわゆる難関と呼ばれる学校ほど、そういう良問を用意してきます。今年の灘中学校2日目の詩の問題なんてその典型です。ですから、今年から新しくなった希学園の小4カリキュラムでは、この「イメージ化」が1年間の中心課題の一つとして前面に据えられています。

さて、子どもたちが「イメージ化」に取り組むときの最大の難点は、さまざまな文章で描かれている情景や状況等についての知識が十分でないということです。海を知らない人に、言葉だけを用いて海がどういうものかイメージさせることがどれだけ難しいか想像してみてください。子どもたちはそういうポジションに置かれているわけです。

僕が「イメージ化」というときの「イメージ」とは、視覚的なイメージに限りません。音声イメージや空気感など、心的に表示したり感覚したりすることのできる表象いっさいをふくみますが、たぶん視覚的イメージを例にとって話すのがいちばんわかりやすいと思うので、そういうつもりで話をつづけます。

子どもたちが文章からイメージを形成するためには、予備知識が必要です。その予備知識はどのようにして身につけるのか? これは実際に見るのがいちばん良いわけです。ですから、幼いころからどんどん外で遊んだり旅行に連れて行ってもらったりすることはとても大切だと思います。実物を見られない場合は、その映像を見ます。ニュースや、BSの美麗なドキュメンタリーを見る。そうすることで、イメージ化するためのベースとなる視覚イメージの蓄積ができます。そういう観点に立てば、マンガを読むことも、イメージのベースを作る一助となりうるはずです。そういう意味で、マンガにはプラスの面があると考えます。ただし、絵が上手でないとダメですが。今どきの少女マンガは絵が壊滅しているものが多くて、とてもおすすめできませんね。顔のアップばかりです。良いマンガ家というのは、1コマで状況全体の表示ができるようなそんな絵をかける人です。

一方、マイナスの面もあります。マンガを読むときに、いわゆる吹き出しの部分が主たる言語情報になりますが、絵に頼ってすべてを理解しようとするばかりだと、言語情報からイメージを作るトレーニングにはなりません。トレーニングにならないだけならまだしも、そういったイメージ化の作業自体を自分の身に引き受けようとしない、省エネの読み方が癖になってしまう危険もあるかもしれません。

そういった危険性もふまえたうえで、テレビを観ること、映画を観ること、ときにはマンガを読むことも、文章読解の力をつける役に立ちうると言ってもいいのではないかと僕は思っています。ただし、あまり非現実的な設定のものは役に立ちません。常識的なイメージを作る役に立たないからです。

せっかくなので、ひとつだけ、以上のような点をふまえたうえでおすすめできそうなマンガを紹介してみましょう。

藤子不二雄Ⓐ『まんが道』です。

少年の夢、挫折、友情、葛藤という入試に出そうなテーマが満載です。人情の機微がわからない系の子には特に良いかもしれません(^_^)。

なお、念のために書き足しておきますが、小6生は、どんなマンガであれ読んでるバヤイではありません。必死のぱっちで宿題をしてください。

大事なことを忘れていました! 

入試分析会、やります!!

3月5日~3月8日の4日間連続です!

ぜひぜひお誘い合わせのうえお越しください!

今年もまた、どこの塾にも負けない分析をご用意いたします!

現在、そのために日々、粉骨砕身、えーと構想を練っています。

明後日あたり、実際に粉骨して砕身する予定です。トホホ。

このブログについて

  • 希学園国語科講師によるブログです。
  • このブログの主な投稿者
    無題ドキュメント
    【名前】 西川 和人(国語科主管)
    【趣味】 なし

    【名前】 矢原 宏昭
    【趣味】 検討中

    【名前】 山下 正明
    【趣味】 読書

    【名前】 栗原 宣弘
    【趣味】 将棋

リンク