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2014年10月13日 (月)

国語教育講演会の告知その1

つい先だっても書きましたが、どの本をザックに入れて山に登るかは、きわめて重要かつデリケートな問題です。8月は白川静先生の『孔子伝』で、これはすごく良かった。で、このたびは熟考のすえ思いきって宮本常一『忘れられた日本人』(岩波文庫)をザックに放りこみました。ちなみに他の候補は、ミルチャ・エリアーデ『世界宗教史』、マイスター・エックハルト『神の慰めの書』、キルケゴール『イエスの招き』、ルドルフ・オットー『聖なるもの』といったあたりだったんですが、・・・・・・何か偏ってますね。まるでクリスチャンみたいです。でもちがいます。大学生のときに、哲学科で宗教学宗教史を専攻していたからです。大学生のときにろくすっぽ勉強しなかった呪いでしょうか、この歳になって妙にそういう本を手元に置いておきたくなります。

宗教学を専攻していた、というと、あまりご存じでない方は、当方が何らかの信仰を持っているのではないかと思われるようです。もちろん、そういう学生ないし研究者もいらっしゃいました。クリスチャンで神学を勉強している人もいたし、お寺の息子さんもいました。でも、だいたいは無宗教の人が多かったような気がします。ちなみに、僕は、『サンタマリアガーデン』という幼稚園に半年ほど通っていたので、キリスト教に対して、うまく言えませんが、何とはなしにこだわりがありました。それで、当時、「宗教学実習」という講座があり(実習!)、キリスト教班に配属されました。この謎の講座は何をするかというと、イモリの黒焼きやマンドラゴラを用意して怪しげな儀式を執り行うとかいうことではなく、先輩とコンビを組んで仙台市内の宗教施設をまわりアンケートをとってくるんです。僕を指導してくれたのはアンチ・キリストを標榜する、キルケゴールの研究をしていた院生でしたが、彼がどういうわけか「西川がいるあいだに、あやしげなところにはすべて行くぜ」と力強く宣言し、なぜか僕たちはふつうのカトリックとかプロテスタントの教会ではなく、ちょっと変わった、マイノリティ系のキリスト教系施設をひたすらまわりまくりました。しかし、なぜ「西川のいるあいだに」なんでしょうか? 僕はいったいどんな人間だと思われたんでしょう? でも、ある日しみじみ先輩は言いました。「お前ほど人見知りするやつを俺は見たことがない」

そうなんです。僕はものすごい人見知りなんです。今でこそ、説明会などにおいでくださった方に対して、顔面の筋肉をしかるべき方法で緊張させることによってそれなりに笑顔らしきものを見せることもできるようになりましたが、当時は教会にアポをとって訪れてもにこりともせず、こわばった表情でぶすっと話を聞くという、向こうからすれば「何しに来たんだお前は」的な若造だったわけです。今でも基本的な性格は変わっていませんので、はじめての授業、はじめての懇談のときは緊張で頭がぐらぐらしています。べつに悪意があるわけではありません。ほんとうにただただ緊張しているだけです。

ところで、宮本常一『忘れられた日本人』です。どんな本かというと、

「日本全国をくまなく歩き,各地の民間伝承を克明に調査した著者(1907-81)が,辺境の地で黙々と生きてきた古老たちの存在を生き生きと描き,歴史の舞台に浮かび上がらせた宮本民俗学の代表作.」

というものです。これ、良かったです。明治から昭和前期にかけての山村や小さな漁村の生活のようすがありありと思い描けて、下手なファンタジーなんか及びもつきません。登場するすべての古老たちが、テレビ番組に出てくるコメンテーターなんかとは格が違います。橋の下に住む盲目の老人が、自分の半生について語ったあとで、こう言います。「女は男の気持ちになっていたわってくれるが、男は女の気持ちになってかわいがる者がめったにないけえのう。」

感動的じゃないですか? 僕は昔からわりとお年寄りの話を聞くのが好きなので、実にはまりました。山で読むのにぴったり、我ながら良い選択でした。しかも、ちょうど帰りの深夜バスのなかで読み終わりました。

あほなことを言うようですが、やはり名作と言われているものには名作が多いです。今年リニューアルしている小5ベーシック国語のテキストにも、「トレーニング」の各ナンバーの後ろに『ちょっと古い名作』を掲載しています。

第1分冊は太宰治の『畜犬談』でした。太宰治というと、『人間失格』のイメージで、なんだかやりきれないぐらい暗い、とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、そういう方はぜひご一読ください。「さわやか」とまではいきませんが、なかなか悪くない読後感です。ずっと以前にも紹介したことがあるかもしれません。太宰治でお勧めは『畜犬談』『黄金風景』『駆け込み訴え』『竹青』『清貧譚』といったあたりでしょうか。『黄金風景』は選択肢の鬱陶しい問題と化してテキストに載っています。

第2分冊には森鷗外の『山椒大夫』を掲載しました。僕はこの話が大好きで、埴谷雄高の『死霊』という小説に出てくる「安寿子」(地味だけどとても魅力的なキャラクターです)は『山椒大夫』の「安寿」と関係あるのかなあなんてぼんやり思っていました。

第3分冊はなんと、『野菊の墓』伊藤左千夫でした。私の世代の人であれば、当時(?年前)人気絶頂であった松田聖子が主演した映画のことを覚えていらっしゃるかもしれません。私はべつに松田聖子ファンではなかったので見に行きませんでしたが、「おでこを出した聖子ちゃんがあんなに××だったとは・・・・・・!」と衝撃を受けたファンが多数いたのを覚えています。それ以来、おでこを出しても綺麗な人こそがほんとうの美人なのだな、という固定観念ができあがってしまいました。

あのころはアイドル全盛期でしたが、アイドルというものにまったく興味がありませんでした。中学生のときにいちばん好きだったのは古手川祐子さんで、高校生のころいちばん好きだったのは戸川純ちゃんでした。大学生のときにレオス・カラックスの『汚れた血』という映画を観て、ジュリエット・ビノシュのあまりの綺麗さに一時的に錯乱して「ふ、ふらんすへ行きたしと思へども金はなし」などと口走っていましたが、じきにおさまりました。

『野菊の墓』をとおして読んだことがおありの方はあまりいらっしゃらないのではないかと思います。はっきり言って、すごくシンプルな話です。でも、そこはそれ、やはり名作。なんだかわからないけど、じーんとくるものがあります。ラストの文句も、ふつうといえばふつうですが、しみじみ良い感じがします。

中学生の頃でしたか、名作のラストがどうなっているのかということばかり調べたことがあります。その大半はもうわすれてしまいましたが、たとえばあの『吾輩は猫である』のラストは、

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい。」です。

『坊っちゃん』は
「だから清の墓は小日向こびなたの養源寺にある。」ですね。このラストもしみじみします。

映画もラストシーンが何と言ってもやはり心に残ります。いちばんびっくりしたラストシーンは、アラン・パーカー監督の『バーディ』でしょうか。ここに紹介できないのが残念ですが(紹介しても何が良いのかさっぱりわからないでしょうから)、とにかくびっくりしましたし、感動しました。もしも観たことがある、という人がいらっしゃったら、ぜひあのラストについて語り合いたいです。

最もラストシーンの悲痛なものと言われればやはりアンリ・コルピ監督の『かくも長き不在』ですか。誰も死なないエンディングにもかかわらずのあの痛ましさ。いつまでも心に残るラストです。これは昔、だらだらと過ごしていたお昼にふとテレビをつけたら放映されていたんです。ほんとうに良い映画というのは、何気なく見たその瞬間に惹きつけられ、目が離せなくなってしまうことがありますね。そのときも、べつに観る気なんかなかったんですが、目が離せなくなってずっと最後まで観てしまいました。そういうことがたまにあります。『シェーン』もそうでした。なんだ、この西部劇は?と思ってしばらく見ていたらもう目が離せなくなり、とちゅうで、「お、これはあの有名な『シェーン』なんじゃないか」と気づき、そして最後まで観てしまいました。『天井桟敷の人々』も同様です。「なんだかわからないけど古い映画だのう」と思い、チャンネル変える気まんまんで、リモコン持ったまま最後まで観てしまいました。めっちゃ長い映画だったんですが。

さて、実に今、私は困っておりまして、何に困っているかというと、こうして書いてきた文章が『国語教育講演会の告知』にまったくつながっていかないという点なのであります。適当に書いてればそのうちなんとかなるさ、と高をくくって書き始めたところ、まったくつながらないという想像もしなかった事態に陥ってしまいました。すなわち、今月の下旬、『国語の学び方・教え方の秘訣』という題でいわゆる教育講演会を実施するので、その告知活動を行いたかったんですが、どういうわけか、全然そこに話がつながっていかないという、いけてない事態なわけです。

そこで例によって例のごとく無理矢理告知します。

標記の教育講演会を、西北と四条と谷九で実施します。谷九会場については、すでに定員をオーバーしたとかで、西北会場に行っていただくか、キャンセルを待っていただくかという状態になっているようです。なんだかすごい勢いで申込みをいただいているそうで、人見知りの私はかなり及び腰というか逃げ腰になっていますが、小心ゆえの完璧さ、をご覧いただく所存であります。

ぜひぜひ他塾とくらべてください。

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