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2018年6月 3日 (日)

あたり前田の

ちょっと間があきましたが、前回の続き。「~め」だけでなく「~す」も鳥を表すのではないかという説があります。たしかに「かけす・からす」「うぐいす」というのもあります。ただ、「からす」の「から」が何を意味するかは難問です。「うぐいす」は魚の「うぐい」と何か関係があるのかもしれません。

花の名前に戻ると「菊」は皇室の紋章にも使われており、日本古来の花のようですが、「キク」は音読みだし、外来種なのでしょう。菊の紋章になったのは後鳥羽以降という説もあります。メソポタミアにも菊の紋章はあったようで、天皇家の祖先はそのあたりから来たのかもしれません。高天原はフェニキアにあった、とか。「ばら」はどうでしょう。「薔薇」と書いて「そうび」と読むので、「ばら」のほうは訓読みです。「茨」が「いばら」「うばら」と読むので、この「い」や「う」が落ちたものでしょう。

ヨーロッパでは、「ばら戦争」というのがありました。戦争の名前に優雅な花の名前を冠するのは妙な感じがしますが、これも家紋から来ているのですね。白バラと赤バラを家紋とするヨークシャー家とランカスター家の王位継承権をめぐる争いです。BBCの番組で、このあたりのことをやっていましたが、なかなかおもしろかった。イギリスの国王で、最もインパクトがあるのがリチャード三世でしょう。シェークスピアの描いたとおりの人物かどうかわかりませんが、佐々木蔵之介主演の舞台も最近ありました。なかなか「人気」のある人です。エドワード四世の弟であるリチャードは王になりたいという野心をもち、さまざまな策略をめぐらします。兄に謀反の濡れ衣を着せて牢獄にほうりこんだのを手始めに、何人もの貴族を処刑して、王位への足場をつくっていきます。エドワード四世の王子が幼いのをよいことに摂政となったリチャードは王子とその弟をロンドン塔に幽閉して、ついに王冠を手にします。そして、二人の王子、さらには自分の妻まで殺害するのですが、やがて自ら処刑した者たちの亡霊にさいなまれるようになります。最後にはリッチモンド公の軍勢に攻められ、無残な戦死をします。何年か前、リチャード三世の遺骨を調査した結果、かなり悲惨な死に方だったことがわかったと新聞に載っていました。遺骨が残っていたこと自体が驚きです。

西洋や中国ではこんなふうにクセの強い国王や皇帝がよく登場しますが、日本の天皇はやはり温厚でものしずかなイメージが強いですね。行動的と言えば、後醍醐と文武両道のスーパーマン後鳥羽ぐらいでしょうか。後鳥羽は新古今の実質上の編集者とも言われますし、盗賊をとらえるために指揮をとり、自分も斬り合ったとか。刀剣好きで、自らも鍛えて、菊の紋章を入れたりしています。それに比べると、後醍醐は小物感が漂うぐらいです。NHK大河「草燃える」で後鳥羽を演じたのは尾上辰之助でした。若くして亡くなりましたが、後白河法皇を演じた尾上松緑との親子共演だったと思います。「太平記」の片岡孝夫の後醍醐は髭がむさくるしくていやだったなあ。楠木正成を武田鉄矢が演じて、これはよかった。

明治天皇は嵐寛寿郎が演じたのが有名です。オファーがあったときに、「そらあきまへん。不敬罪です。右翼に殺されますわ」と断ったのに、新聞に「嵐寛寿郎、大感激」と書かれて出演せざるをえなくなったとか。昭和天皇はハマクラこと浜口庫之介という作曲家が演じたことがあります。これはたしかに顔が似ていました。天皇のそっくりさんなんて、戦前なら不敬罪です。この役ならこの人というのは、当たり役でもあるのですが、イメージを限定することにもなってしまいます。渥美清も「寅さん」から抜け出せずに苦しんだようです。

再放送の「相棒」を見ていると、今をときめくスターがチョイ役、犯人役で出ていることがあって、ちょっと驚くことがあります。売れる前だったら、そういう役もやむをえなかったのでしょうが、たとえば仲間由紀恵が「貞子」をやってた、なんて聞くと「黒歴史」かなと思ってしまいますが、主役は主役です。ドリフがビートルズの前座をやったことがあるというのは「白歴史」というのかなあ。売れない俳優だったのが世界的な演出家になったというケースもあります。蜷川幸雄ですな。

読売テレビに勤めていた友人が演出した芝居を一心寺のミニシアターで見たことがあります。この一心寺というのも変な寺ですね。劇場をもっているというのも変ですし、納められた遺骨10年分をひとまとめにして「骨仏」なるものを造ります。遺骨で造られる阿弥陀如来像ということですね。落語などの演芸にも理解があって、落語会を催したりもしていますし、話の中にも登場します。「天神山」という話では「へんちきの源助」なる男が「花見やなしに墓見をしよう」と言って訪れるのが、この一心寺です。小糸と書かれた石塔の前で酒盛りをし、帰るときに土からのぞいているしゃれこうべを持って帰ってしまいます。その夜、若い女がたずねて来ますが、もちろんそのしゃれこうべの主ですね。この小糸が押しかけ女房になる、というのが話の前半。

後半は、源助のとなりに住む「どうらんの安兵衛」が主人公になります。「幽霊の女房は金がかからんで、ええでぇ」と言われ、一心寺へ行くのですが、そう簡単に若い女性のしゃれこうべが転がっているはずもなく、向かいの安居の天神さんへ行くと、狐をつかまえている男に出会います。その狐を買い取って逃がしてやると、この狐が若い女性の姿になって押しかけ女房になります。男の子が産まれて三年後、狐の正体がバレて、「恋しくばたずね来てみよ南なる天神山の森の中まで」という歌を障子に書き残して去って行きます。枝雀は「落ちなし」で終わりますが、狐になりきって、筆を口にくわえたりして「曲書き」をして終わる演じ方をする人もいました。この歌はもともと「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」でした。浄瑠璃「蘆屋道満大内鑑」、「あしやどうまんおおうちかがみ」と読みます。「葛の葉」は、和泉国信太、これは「しのだ」ですね、信太の森の女狐です。助けてくれた安倍保名と結ばれて、生まれた子供がつまり安倍晴明、という話のパロディが「天神山」です。きつねうどんや稲荷寿司を「しのだ」と呼ぶことがあるのも、これが元になっています。ちなみに、泉州信太出身の有名人といえば、あんかけの時次郎です。知りませんか。「てなもんや三度笠」の主人公で、藤田まことの出世作ですが…。この名前も、長谷川伸の戯曲「沓掛(くつかけ)時次郎」のパロディですね。柳家金語楼が西郷隆盛の役で出ていましたから、時代設定は幕末だったんですね。冒頭で藤田まことの決めゼリフ「オレがこんなに強いのも、あたり前田のクラッカー」をたまに合格祝賀会でも使うのですが、だれも知らんのやろなぁ。古すぎてだれも知らんのも、あたり前田のクラッカー。

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