九九の読み方
「小豆島」、じつは古くは「あずきしま」だったらしいんですね。中世以降「しょうどしま」と読むようになったそうですが、「小豆郡」は「しょうずぐん」というのが妙です。「小豆」を「あずき」と読むような読み方を「熟字訓」と言います。「田舎」「土産」のように、熟語全体を訓読みするものです。知らないと読めないわけですが、一つの漢字でも使い方で変な訓読みになるものがあります。「柳」の訓読みは? と問われたら誰しもが「やなぎ」と答えます。ところが「柳原」さんは「やなぎはら」さん以外に「やなはら」さんと読むこともあります。「やなぎ」の一字目と二字目だけの読み方です。では「花柳さん」は? 「はなやぎ」なので、「やなぎ」の一字目と三字目です。ところが「柳楽」さんは? いろんな読み方がありますが、「なぎら」と読むことが多いようです。「なぎ」と読むなら「やなぎ」の二字目と三字目ということになります。
「羽生」という名字は「はぶ」とも「はにゅう」とも読めます。将棋の「羽生善治」は「はぶ」、スケートの「羽生弓弦」は「はにゅう」ですね。むかし、赤土のことを「はに」と言いました。漢字で書くと「埴」で、これで作ったのが「埴輪」です。「はに」のとれる場所は「はにふ(埴生)」、これが少しずつ変化していきます。「はにふ→はにう→はにゅう」または「はにふ→はぬふ→はんぶ→はぶ」とでもなったのでしょうか。やがて漢字も「羽生」になったわけです。
同じ漢字の熟語でも文脈によって意味が変わることもあります。「人気」は「にんき・ひとけ」の二通りの読み方があることはよく知られています。実際には「じんき」と読んで、その地域の人の気風の意味になったり、「ひとげ」と読んで「人間らしさ」の意味になったりすることもありましたが、最近ではあまり使われないようです。では、「ただでさえ人気のない図書室に、始業前に来るような生徒はいない」の「人気」は「にんき」「ひとけ」のどちらでしょうか。これはどちらとも解釈できそうです。「人気のない公園」なら、ほぼまちがいなく「ひとけ」でしょうが…。
さっきの「柳」ほど特殊でなくても、よく見る簡単な漢字なのに使い方で読みが変わることがあります。日本語を習いたての外国人が困るものとして、よくあげられています。しかも日本人は子どもでさえ当然のように読み分けている場合、つくづく日本語の難しさを感じるそうです。たとえば「令和七年七月七日の七夕」の「七」は全部ちがう読み方ができます。「三」の読み方は「サン」の音読み以外、「三度」なら「み」、「三日」なら「みっ」があります。特殊な読み方としては「十三」が地名なら「じゅうそう」、人名なら「じゅうぞう」、「三味線」は「しゃみせん」、「ごちそう三昧」は「ざんまい」ですが、「三郎」の「三郎」は音読みでしょうか、訓読みでしょうか。
「二郎」の「二」を「ジ」と読むのは音読みで「次郎」と同じように考えてよさそうです。「一郎」や「五郎」など、音読みの「郎」と結びつくとき、数字が音読みになっているので「さぶ」も音読みと見なすべきですが、二音の音読みの場合、二音目は「ウ・ン・チ・ク・イ・ツ・キ」のどれかになります。ということは「さぶ」は音読みではないことになります。じつは「三」の音読み「サン」の「ン」は「N」音ではなく、「M」音なんですね。だから「三位」は「さんみ」に変化します。ということで、「三郎」は「さむろう」です。ところが、「む」と「ぶ」はわりと簡単に入れ替わります。「かぶる」と「こうむる」は同じ語源からの変化ですし、「冠」も頭に「かむる」ものです。「かたむく」は「かたぶく」とも言いました。「けむたい」を「けぶたい」と言う人もいます。「さむろう」が「さぶろう」に変わってもおかしくありません。
日本語初心者の外国人には助数詞が難しいようですが、特に「本」は微妙にむずかしいようです。「一本」は「ぽん」、「二本」は「ほん」、三本は「ぼん」というように、「一・二・三」ですべてちがいます。小さな「っ」のあとの「ぽ」は納得できても、「ん」のあとは濁音になる場合と半濁音になる場合があり、「散歩」なら「ぽ」なのに、「三本」はなぜ「ぼ」なのか、と疑問が生まれます。「三拝」は「さんぱい」、「三杯」は「さんばい」です。日本語の「パ行」の特殊性のせいでしょうか。カ行やタ行が濁って、カ行、タ行になるように、ハ行はバ行になるのですが、なぜかパ行という半濁音も登場します。もともと「は」の発音が「pa」だったのに、いつのまにか「ha」に変わり、別の系統としてバ行が登場してきたので、「本」や「分」の前に数字が来たときにややこしいことになるのかもしれません。もっとも、「階」も、数字が前に来ても「かい」なのに、なぜか「三」のときには「がい」になるので、「三」が特別なのかも?
では、「四」は? 「四本」は「よんほん」となって「ほ」が濁りません。これは「よん」に問題がありそうです。「いち、に、さん」という音読みの数字が続くなら、「四本」は「しほん」が正しいはずです。実際に「しほん」と発音する場合もあります。一方で「四」の訓読みは「よ」なので、「よほん」が「よんほん」になったわけで、この「ん」は軽い感じの発音になって下の音を濁らせるほどの力がなかったのではないかとも考えられます。「匹」も「三びき」「四ひき」です。そうすると、なぜ「四」だけ訓読みなのかという、新たな疑問が生まれます。これは「シ」の音が「死」に通じて縁起が悪いから、と考えるのが素直なようです。「人」の場合、「ひとり、ふたり」のあとは「さんにん」になるのに、次は「しにん」と言いません。これはどうしたって「死人」を連想します。「よにん」が普通だし、場合によっては「よったり」ということもあります。五からあとは「ごにん、ろくにん…」ですね。「しちにん」が「ななにん」になるのは「しち」が「いち」とまぎらわしいからでしょうか。自衛隊で11時を「ヒトヒトマルマル」と言うようなものでしょうか。ちなみに12時は「ヒタフタマルマル」と言う、と書いてあるものもよく見かけますが、これは海上自衛隊であって、陸上自衛隊は「ヒトニーマルマル」らしいです。「九人」は「きゅう」と「く」のどちらもありですが、「く」は「苦」に通じるから避けるという場合もありそうです。「九本」は「くほん」とはあまり言わないけど、「九月」は「きゅうがつ」とは言いません。このあたりもなんだかなあ、ですね。




