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2013年7月の1件の記事

2013年7月25日 (木)

スピンオフ

「おいこら」は「おーい、そこのあなた」というレベルで人を呼びとめる意味だったのが、鹿児島出身者が警察官になって使ったため、人をおどすような感じで受けとられたのですね。誤解というのはおそろしい。「ナイスショット」はゴルフでよく聞くことばです。特に接待ゴルフでは必要不可欠なことばでしょう。ところが、鹿児島弁で「ナイショット」と言われたら、「なにやってんだ」という意味になってしまいます。「どこを狙うとる、この下手くそ」と言うとるわけですから、鹿児島でゴルフをするときには「ナイスショット」は禁句ですな。

昔、黒板消しのことを「ラーフル」と言う人がいましたが、これも鹿児島弁の一つです。オランダ語の「ぼろ布」という意味だそうで、長崎経由でオランダ語がはいってきたのでしょう。「ゴム」のことを「ギッタ」と言います。「ゴムまり」は「ギッタマイ」です。これも、もとはオランダ語のようです。方言の中に外国語もまじっているのですね。逆もあります。「醤油」のことを「しょい」と言います。この変化は全国的にあるようで、大阪でも使っている人がいます。「しょいのみ」とは「醤油の実」、つまり大豆のことです。幕末のころ、パリ万博に薩摩は幕府とは別に参加しています。そのときに出品した調味料「しょい」がなまってソイになり、ソイソース、ソイビーンという英語になったとか。「ヤクーザ」「カローシ」と並ぶ、日本語がもとになった英語ですな。

一方、東北弁のほうは過疎と震災で消えそうだとも言われます。「じぇじぇじぇ」はブームですが。あれは地元では「じゃ」と言うらしい。それでも残っていることは残っています。一方、石巻では雄牛が「ど」、陸前高田では「梅雨」が「じっぷぐれ」と言っていたそうですが、こういうことばがなくなりつつあると天声人語に書いてありました。むかし、秋田の大曲の老人と話をしたとき、まったく意味不明でその息子が「通訳」してくれましたが、何を言っていたかというと、「津軽弁はわからん」とのこと。有名な「どさ」「ゆさ」ですな。「どこへ行くのですか」「お風呂ですよ」というやつ。短くなるところは鹿児島弁と似ています。「け」だけで、「食べろ」「かゆい」「おくれ」「どうぞ」「粥」になりますし、「毛」も当然「け」ですね。自分の「わ」、あなたの「な」など、古語もしっかり残っています。「えふりこぎ」は「いいふりをこく(する)」意味の「いいふりこき」で、見栄っ張りのことだし、「おべだふり」は「覚えたふり」の訛りで知ったかぶりのことだというのは納得しやすい。「~だんず」「~だびょん」「~ずおん」みたいな文末の音の感じがフランス語に似ているので、トヨタのCMでもやっていましたね。「せばだばやってみら」とか言ってました。英語の「ハブ・ア・ナイス・デー」も津軽では「へばナイスデー」と言うらしい。ほんまかいな。津軽弁もそのまましゃべっても、暗号として使えそうです。

暗号と似たもので、よく推理小説に出てくるのが「ダイイングメッセージ」です。「今日のお料理はカレーです」っていうやつですか。そら、ダイニングメッセージやがなー! 祝賀会の劇でも「ダイイングメッセージ」ということばが出てきたときに、「ソーセージもって死ぬこととちゃうでー」という不謹慎な台詞を書いています。O方先生に強制されて書いたのですがね。ミステリーで、死んだ人物が死ぬ間際に残したメッセージのことで、たいがい犯人を示しているのですが、なぜかズバリと言わないで、まわりくどい暗号になっています。犯人に知られないようにするため、という苦しい説明がついているのですが、死ぬ間際にそんなまわりくどいことを考えるだけの気力があるのでしょうか。「被害者のポケットには碁石が88個はいっていた。白が52、黒が36。これはピアノの鍵盤の数だ。つまり犯人はピアニストのあなただ!」……まわりくどいだけでなく、碁石を数えながらポケットに入れてる間に死んじゃいます。死ぬ前に入れてたとしたら用意周到すぎるし、ポケットふくらみすぎで犯人に見破られます。横浜スタジアムの方向を指さして倒れている被害者、探偵は犯人を浜陽子という女性だと断定します。なぜなら、被害者の指さす方向に書かれていた文字は「YOKOHAMA」……。

『相棒』のスピンオフ「X DAY」は悪くはなかったのですが、予想通り地味めの展開でした。犯人さがしというより、権力をもった相手に真相をにぎりつぶされるという、よくあるパターンで、右京さんもわざわざ出るまでもないという感じでした。スピンオフだから当然といえば当然ですが。「スピンオフ」ということばも、最近よく聞くようになりました。テレビのドラマや映画、漫画などの「派生作品」という意味のようです。単なる続編ではなく、脇役キャラクターを主人公にしたりするようなやつですね。『バットマン』から生まれた『キャットウーマン』(古いか!)とか、ドラクエのシリーズから生まれた『トルネコの大冒険』(これも古いか!)。キングボンビーの『桃太郎電鉄』は『桃太郎伝説』のスピンオフと言っていいのか? 志村けんのバカ殿は『全員集合』か『ドリフ大爆笑』のコントから一つの番組になったのだから、これもスピンオフでしょう。一つのキャラクターが別の作品で主人公になるというだけなら、手塚治虫の「スター・システム」もあてはまりそうですが、スピンオフはその背景となるものが共通しているのに対して、スター・システムはキャラクターが俳優みたいなもので、全く別の作品に出てくるという違いがあるようです。スピンオフというのは、昔なら「外伝」と言っていたものですかね。白土三平の『カムイ伝』は、『ガロ』という雑誌に連載されてたのですが、『少年サンデー』でやってたのは『カムイ外伝』でしたね。「外伝」ということばを覚えたのはこの作品だったのかもしれません。『ガロ』は、手塚治虫の『COM』とともに、大人向けのマンガ雑誌で、全共闘時代の大学生がお気に入りだったものなので、本伝が大人向け、外伝は子ども向けだったのかもしれません。テレビのアニメも「外伝」のほうだったと思います。松山ケンイチと小雪の映画も「外伝」だったかな。見ていないので記憶はあいまい。評判もイマイチだったような。同じ忍者でも、大物俳優加藤清史郎先生主演『忍たま乱太郎』は「外伝」ではありません。

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