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2014年4月の1件の記事

2014年4月15日 (火)

山田エリザベス

調べてみたら、中国と韓国では事情がちがうようですね。韓国と日本ではおたがいに本来の発音にしたがおうということになっているようですが、中国の人は勝手に自国語風に読んでもよいそうです。中国では表音文字がないので、どう読むか伝えようがないからかもしれません。ですから、それに合わせて日本でも日本語の読み方を利用して、本人の希望とは関係なく勝手に読んでいいのですね。朝日新聞はなぜか必ず「シーチンピン」というふりがなをつけていますが、習近平は「しゅうきんぺい」でかまわないし、安倍晋三は…なんだか知りませんが、中国の発音で読まれるのでしょう。

世界史で、シーザーがいつのまにかカエサルになったり、ジンギスカンがチンギス・ハーンになったりしているのも実際の発音に近づけようということでしょうか。地名もベニスをベネツィアと言うのがいまの「はやり」のようです。ピザとピッツアはどうちがうのかなあ。Pizzaの綴りを素直に読めば「ピザ」のような気もするし、昔は「ピザパイ」と言っていました。現地音主義なら「ピッツァ」でしょうが、なんだかちがうものを食べているような。外来語は、あくまでも「日本語」なのだから日本風の「ベタ」な発音でいいはずです。野球の「チーム」は「チーム」であって、「ティーム」と気取って発音するアナウンサーはあまりかしこくないにちがいありません。

国名は以前からいろんなタイプのものが混在していますね。スペインはエスパーニャではなく、英語経由のようですが、ドイツはジャーマニーではなく、ドイチュラントがもとになっています。イギリスなんて、日本でしか通用しないでしょう。幕末のドラマでは「エゲレス」「オロシャ」ですね。でも、中国の揚子江は「ようすこう」だし、毛沢東は「マオツートン」と読む必要はありません。「けざわあずま」という、ふざけた読み方もありましたが。ところが北京はペキンですね。南京もナンキンだし、上海はシャンハイです。「中華人民共和国」は日本語風に読みながら、その中の一都市は中国語風に読むのですね。日本の東京はやはり中国では「トンキン」と発音されているのだろうなあ。

日本人の名前でひらがな書きの場合は、中国ではどうなるのでしょうか。「美空ひばり」なら意味を考えて「美空雲雀」で切り抜けられそうですが、浜崎あゆみは勝手に「歩」とするのでしょうか。で、そのうえで中国風の発音で読まれるのだから、本人は自分のことを言われてもまったく気づかないでしょう。「郷ひろみ」の「ひろみ」はどんな字をあてるのでしょうか。林家こん平はどうなるのかなあ。「こん」の部分は「近」の字をあてて「チンピン」と読まれるのかもしれません。たしかサザンオールスターズは「南天群星」と書いてあったような気がしますが、あれは「意訳」ですね。ドラえもんは、「機械猫」だったはずですが、いまは「多拉A夢」と書かれています。「たくさん拉致する」という前半にもひっかかりますが、後半でアルファベットを使うなら、西洋の人も含めて、日本人の名前だって本来の発音に近い形で書けるでしょう。「D0RAEMON」でいいはずなのに、無理矢理漢字にあてはめるのですね。これは、いつのまにか意訳から音訳になっています。やはり音訳がいまの「はやり」なのでしょう。コカコーラが「可口可楽」、ケンタッキーが「肯徳基」であるのは有名です。漢字の意味も考えた上での選択でしょうが、さすがにうまいものです。でも、「牛頓」がニュートンというのは苦しいなあ。

ニューヨークの「紐育」、トルコの「土耳古」も音訳ですが、「河内」がハノイを表すのも音訳でしょう。ただし、日本の「河内国」はあくまでも「かわちのくに」ですし、「佐村河内守」も「さむらハノイまもる」ではありません。タイを「泰」で表して、ミャンマーを「緬」で表した「泰緬鉄道」というのもありました。映画『戦場に架ける橋』ですな。ウィリアム・ホールデンとかアレック・ギネスなんて、顔も忘れましたが。早川雪洲という人も出ていました。ハリウッド映画に出る日本人俳優といえば、この人しかいなかったのですね。「セッシュする」という業界用語のもとになった人です。人物やセットの高さを調整するという意味ですが、日本人の早川雪洲は背が低いので、アメリカ人と並んでアップになる場面では踏み台の上に立ったということから来ているそうです。『戦場に架ける橋』は知らなくても、主題歌はいまでも知っている人が多いはずです。「クワイ河マーチ」です。ミッチ・ミラー合唱団でしたか、「サル、エテコ、チンパンジー」と歌ってましたな。

ハリウッドは漢字で「聖林」と書かれていましたが、実はまちがいだったそうです。Hollywoodは「ひいらぎの森」という意味なのに、Hollyを、「聖」を意味するHolyとまちがえたのだそうな。「牛津」というのもありました。これで「オックスフォード」と読むのですが、「オックス」は牛です。英語というのは牛をやたらと区別しますね。「カウ」は雌で、雄は「ブル」。これと闘うのが「ブルドッグ」です。食べるときは「ビーフ」。同じ雄でも車をひくようなのは「オックス」、「フォード」は「浅瀬」なので、「オックスフォード」は牛が歩いて渡ることのできる浅瀬ということで「牛津」と書いたのでしょう。ところが一方の「ケンブリッジ」は「剣橋」です。「ケン」はそのまま音訳で「ブリッジ」は「橋」という混合タイプです。石橋さんのブリジストンは統一がとれていますが、なぜ「ストンブリジ」の逆になったのか。表記は「ブリヂストン」が正しいのか、今のかなづかいで「ブリジストン」とすべきなのか、なかなか悩ませる会社です。

現地音主義で行くべきだという人でも、東南アジアのタイとかベトナムの発音は難しく、真似できそうにありません。現地の発音で、と言われても無理だろうなあ。ユダヤの神の名ももともとの発音がわからんとかいうことです。「ヤハウェ」とか「エホバ」が正しいわけではないらしいですな。ジャッキー・チェンとかアグネス・チャンとか、中国系の人なのに、英語の名前(?)をつけている人がいます。山田・ゴンザレス・太郎のようなクリスチャン・ネームというわけでもなさそうです。香港の人はイギリス人とのつきあいが多かったので、自分で好き勝手な名前を付けたのでしょう。これもやはり正しい発音が欧米人には難しいので便宜上の名前ということで採用したのではないでしょうか。山田花子が「わたしのこと、エリザベスと呼んで」と言うてたのとおんなじですな。

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