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2010年9月12日 (日)

精読「おこだでませんように」

先日紹介した絵本「おこだでませんように」の詳細解説です。

この本を一緒に開きながら読んで頂けると幸いです。

読む=情報を引き出す

という立場で精読をしてみます。

まず、表紙なのですが、右を向いた男の子の顔です。

一見して「不敵な面構え」という印象。まゆ毛がつりあがり、白目の部分が目立つくらい、一点を凝視しています。

ただ! その目の下辺をよく見ると、涙が溜まっています。

怒っている、というのではなく、「泣くのを我慢していて、怒ったように見える顔」なのです。

扉のページ。どことなくくすんだ青空ですが、小学校の校舎らしきもの、七階建てくらいのマンション、赤い屋根の家などが見えます。

次のページで、外階段の集合住宅らしき赤い屋根の家が見えます。

男の子はうつむき加減で歩き、石をけっています。典型的な「しょんぼり」のシーンです。

注目したいのは、石垣のすきまから生える雑草などが比較的ていねいに書きこまれていること。

二ページ目。

仕事で帰りが遅い母の代わりに妹と遊んでやる「ぼく」の不満が書き連ねられています。

わがままを言う妹を叱ると、妹はすぐに泣くのだ、と言ったあとの、

「おかあちゃんが かえってくるまで ないている」というあたり、

妹が「涙を武器にしている」ことがうかがえて、きょうだいでは年下の方が世渡り上手なもんだよね、などと考えてしまいます。

絵の方に目を移すと、妹の言う通り下手な「ぐちゃぐちゃの」折り紙、ねずみのぬいぐるみ、絵本などが床に置いてあって、妹をあやすためにいろいろ苦労した「ぼく」の肩をもってやりたくなります。

いかにも質素な暮らしをしている風なんですが、低いタンスの上に飾ってある写真は「母・ぼく・妹」の三人だけのようです。

次のページでは、母親の手だけが描かれています。その手は、「さしのべられる手」ではなく、「指差し、指摘する手、追及する手」です。

表紙の絵によく似た構図の「ぼく」の横顔が描かれています。しかし、まだ涙は浮かんでいません。妹は右上に小さく描かれ、「思う存分泣いている」という体です。

「けれど、 ぼくが そういうと、 おかあちゃんは もっと おこるに きまってる」

ぼくは何も言い訳せずにだんまりを決め込みます。

次のページは左右に分かれていて、

カマキリを女の子たちの前に差し出している「ぼく」、怖がって泣いている女の子、後ろから恐い顔でどなっている男の先生、が描かれています。

「ぼく」は、女の子をからかおうとするような顔でもなく、先生に叱られてしまったという顔でもなく、「何で泣いているんだろう」という思いの外素朴な表情です。

右のページは、マスクをして給食係なんでしょうか、「ぼく」の前には山盛りになって食器からこぼれそうなスパゲティが置かれ、その前で待つ男の子はよだれをたらしてうれしそうです。

女の先生が制止しようとしていますが、「困った顔・迷惑そうな顔」です。貼り紙の「のこさずたべよう」があることから、「ぼく」はその指示に従ったのかもしれません。

少し飛ばしますが、

「あーあ、ぼくは いつも おこられてばっかりや」がくり返されます。

「おかあちゃんも せんせいも ぼくをみるときは、いつも おこった かおや」

のページでは、ノラネコをひろってきたらしい場面が描かれています。困った顔のおかあちゃんですが、玄関の靴箱の上には、カタツムリ・バッタ・金魚などのケースや水槽が置かれ、生き物が好きな「ぼく」の人物像がうかがえます。おかあちゃんもある程度許してはいるのでしょう。

よい子になりたいと心では願っても、なぜか大人たちからは叱られてばかり。考えてやったこと、いっしょうけんめいにしたことが裏目にでてしまう情けなさ。そういう思いにうちひしがれている「ぼく」の気持ちが伝わってきます。

さて、いよいよ「七夕の短冊に願い事を書く場面」です。

他の児童たちは、早々と願い事を書き、外へ遊びに行くようです。

早く書きなさいと先生にまた叱られながらも、

「いちばんの おねがい」を黄色い短冊に書いていきます。

次のページでそのお願いが明らかになります。

黄土色の机の上におかれた黄色い短冊。その横には、いかにも勉強のできない子が持っていそうな、反対側が「カミカミ」されて凸凹になっているえんぴつ。むしってちぎられた消しゴム。小学校のとき、えんぴつに歯形をつけた子を馬鹿にしていたわたしの記憶がよみがえりました。

「おこだでませんように」

先生が泣いている場面。

しゃがんで、「ぼく」と同じ高さになって、頭をやさしくなでています。

「ぼく」は、喜んでいるというより、驚いている顔。

「さっそく おねがいが かなったからや」と驚きの理由が書かれています。

そして、私がこの絵本で一番好きなページが次のページなのです。

「そのひの よる、せんせいから でんわが あった」

長い電話のあと、「ぼく」をだっこしてくれたおかあちゃん。

テーブルの上におかれたコーヒーカップには、小さな笹と、短冊が。

ピンクの短冊には「おりがみがじょうずになりたい」

赤い短冊には「おこだ×られませんように」

黄色い短冊には「みんながげんきにくらせますように」

と書かれています。

最後のページでは、笑顔のまま眠る「ぼく」が、星をちりばめた宇宙にうかぶ布団とともに描かれています。

「たなばたさま ありがとう」

「おれいに ぼく もっと もっと ええこに なります」

私の経験でも、「ええ子」に変身した子が何人もいました。

その子の周りには、短冊を見て涙を流して子どもに謝ってくれる先生、その先生から電話をもらって、その電話に感謝して自分の至らなさにすぐ気づく母親、のような大人たちがきっときっといたことでしょう。

自分も、そういう存在でありたい、と思い直しました。

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