矛盾
(新美南吉風に)
それは昔、楚という国で、武器を売る商人がいましたよ。
その商人の言うことを聞いてみると、こんなふうでした。
「この盾(たて)を買いなよ。この上がない盾だ。この盾はどんな矛(ほこ)でも突き通せないものだ」
そう言いまして、くだんの盾を、うち振って、往来の人々に見せておりました。
人だかりが、だんだんと、できてきます。
商人の男は、ひげを自慢そうになでつつ、調子に乗ったのでしょうか、こういうことも言いました。
「この矛もすばらしい。この矛で突いたならば、どんなヨロイも盾も、ものの数ではない」
さすがに、自分の言ったことが大げさだと思ったのでしょうか、しばらくもじもじしておりましたが、いっそう声をあらげて、
「さあ買った買った、早く買わないと店じまいだ」
と言う始末。そこに、人だかりの中から意地の悪そうな、切れ長の目をした男がにじり出てきて、
「おい、商人。お前の言うことが本当なら、その立派な盾を、その矛で突いて見せよ。どんな矛でも突き通せぬ盾と、どんなものでも突き通す矛が両方あるなんて。それは矛盾しているというものだぞ。」
痛いところを突かれました。
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さて、「矛盾」という故事ですが、上の話の中にもさらに矛盾があったのがおわかりでしょうか。よく授業でするネタなのですが。