光年のかなた③
じめじめしとしと梅雨がつづいておりますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
僕が大学に入った4月も、穀雨というのでしょうか、ずっと雨が降っていました。日照時間が少なくて寒かった覚えがあります。
音楽なしでは生きていけないと信じていた僕が大学に入ってまず購入したのはミニコンポでした。押しの強い店員に勧められるのを断り切れずに選んだものなので、今思い出してもあまり良い買い物じゃなかったですね。音も良くなかった。在仙生活の終わり頃には、くり返しチョップしないと音が出ないようになっていました。そのときのくせで、今でも調子の悪い機械はチョップしたくなります。会社から貸与されているノートパソコンも、反応が鈍いとどつきたくなるんですが、今のところ理性が勝って何とか持ちこたえています。
寮から大学まで歩くと片道1時間前後かかるので自転車を買うつもりでいたのですが、ミニコンポを買った直後に、自転車購入資金だった3万円が消えました。どこに消えたかよくわかりません。落としたのか盗られたのか、とにかくなくなっちゃったんです。自転車はあきらめざるをえませんでした。
そうして僕の苦難のキャンパスライフを象徴するような、徒歩通学の日々が始まったのです。
いやあ! 1日1食で毎日2時間歩くと痩せますねえ! 1ヵ月で8キロ体重が減りました。
寮の風呂に入るたびに、体重計の目盛りが500グラムずつ減っていくのがおもしろくて、結局、夏休みまでに13キロぐらい痩せたと思います。
風呂といえば、寮の風呂があなた。もうたまりませんよ。入浴時間が6時~10時なんですが、8時を過ぎると浴槽のお湯が豚骨スープなんです。入浴剤のせいでなく白濁してます。寮生200人弱。みんな汚いですからね。それが次々にザブンドボンとつかる浴槽ですから、あっというまに良いダシが出ちゃってねえ。入った方が汚れるやんけ、と思いました。
そんなわけで当時風呂に入るのがいやになり、しばらく入らなかったことがあります。
何日間入らなかったか?
それは言えません。それを書くと、保護者の方が僕と懇談してくれなくなる可能性があるので。あの、今は入ってるのでだいじょうぶです。
えーと、それはともかく、とにかくすごく痩せたわけです。
夏休みに帰省したとき、父母に嫌そうな顔で「貧相になった、みっともない」と罵倒され、その夏はひたすら食わされました。
そもそも寮は2食付きだったんですが、大学に入ってまもないというのに、僕は、決まった時間に朝飯を食べることができない体になってしまっていました。目覚ましが鳴って、ああ、早くご飯を食べに行かなければと思うんですが、なかなか起きられないんです。そこをぐっとこらえて必死で寝床から身を引き剥がし、ふらふらしながらなんとか食堂にたどり着き、やっとの思いで朝ご飯を食べている・・・・・・ところで目が覚めちゃうんです。当然、そのときはすでに朝食タイムが過ぎ去っています。それですぐに朝食費を払うのはやめました。
夢は願望充足だ、というフロイトの理論は僕にとっては実にうなずけるものでした。
さて、そんなわけで、朝飯抜きで1時間歩いて学校に行きます。
午前の講義が終わったあたりがいちばんつらいです。みんな生協に昼ご飯を食べに行くんですが、僕は昼飯代をけちって、何も食べずベンチに転がっていました。
午後の講義のあと、用もないのに街中をうろつき、低血糖状態で寮に戻ってきてご飯を食べ風呂に入ると、もうすることがありません。いや、勉強すればいいんでしょうけれど、そこは何といいますか、大学生ですからね!
もちろんテレビもないので、ひたすら音楽を聴いてました。シベリウスの『悲しき円舞曲』とか『トゥオネラの白鳥』とか、そういう暗いやつです。
えもいわれず陰気なキャンパスライフの始まりでした。
青春が明るいものだなんてだれが言ったんでしょう。
青春とは憂鬱なものです。
僕だけっすか?
ちっ。
つづく。ちっ。