小学生のときに読んだ本⑦
にんじん ジュール・ルナール
出た~! ついにあの『にんじん』です。
これはねえ、ひどい話なんですよ。みなさん読まれたことがありますか?
お母さんが主人公のことをものすごくいじめるんです。はんぱじゃないですよ。兄や姉のことはかわいがるのに末っ子のにんじんにだけ、これでもかこれでもかとひたすらひどい仕打ちをつづけるんです。たしかに主人公もかわいげがない子どもなんですが、それにしても実の子に「にんじん」とあだ名をつけて、スープにおしっこ入れてのませるなんて、ありですか?
いくら言っても「にんじん」のおねしょがなおらないためにそういうことをするんですが、今だったら立派な虐待ですよねえ。
一方、父親はつねに見て見ぬふりです。妻にも子どもにもあまり関心がない人なんです。
私は、このひどい話をですね、母の薦めで読みました。
小学校4年生くらいでしょうか?
母が「おもしろいから読んでごらん」と言うので、ふんふんと素直にうなずいて読みはじめたわけですが、すぐさま目が点になりましたね。
なにゆえにわしの母はわしにこの本を・・・?
な、なにか深い意味が・・・?
いや、これはきっと最後に感動的な和解があるにちがいない!
母と子の心が通じ合う涙ちょちょぎれるラストが用意されているにちがいないのだ!
ところがぎっちょんちょんですわ。
母子の心は最後までまったく通じ合いません。
父親とは少し心のふれあいらしきものが生まれますが、「にんじん」が寄宿舎に入って別々に暮らすようになってから、手紙のやりとりを通じてかろうじて、という程度です。
どうも私の母は何かかんちがいしていたみたいなんですね。ちゃんと読んでいないんだと思います。
しかしですね。それにもかかわらずです。
この本はすごくおもしろいんです!
何がおもしろいかうまく言えないんですが、何度もくりかえして読みたくなる何かがあるんです。ストーリー的には読んでいて苦しいんですが、それとはべつの魅力がたっぷりあります。
あえて言えば、「詩情」という言葉がぴったりでしょうか。文章から南仏の雰囲気が濃厚に漂ってきますね。昆虫にあまり興味がなくてもファーブルを読めばその文章世界に引き込まれてしまうのに似ています。
小学生のころうまく言葉にできないまま感じ取っていたこの本の魅力は、そういうところにあると思います。
物語のおもしろさは、ストーリーだけじゃありませんね、はい。