バイトの日々①
前回、うどん屋で出前持ちをしていたという話を書きましたが、大学時代およびその後、二十種類におよぶアルバイトを体験しました。
二十種類というのは結構多いんじゃないかと思うんですが、これはひとえに僕がバイタリティーに満ちあふれた働き者だからではなく、やる気がなくてすぐにバイトをやめてしまうからですね。
だいたい働くのが大嫌いで、ほんとうに困り果てるまで働かないという方針を貫いていたので、選ぶバイトもその場しのぎの単発バイトがほとんどでした。
困り果てるまで働かない、というのは、文字通り困り果てるまでであって、困り果てるというのはどのくらい困り果てているのかというと、低血糖で動けなくなるレベルです。
低血糖で動けないなんてこの飽食の時代に・・・・・・と思われるかもしれませんが、たびたび経験しました。
いや~、ほんとうに動けないんです。朝、目が覚めたら体にまったく力が入らない。トイレに行くのに数分かかります。這って行きますからね。
だいたい前の日にほとんど何も食べていないんですね。前々日もろくすっぽ食べていなかったりします。
これは食べるまで復活しないので、近くの定食屋まで這うようにして行き、なけなしの金で定食を食べます。あれはなぜですかね? 空腹のはずなのに、全部は食べきれないんですよね。でも食べてしばらくしたら元気になります。
生き物は食べものがないとだめなんだなあということが身にしみてわかる日々でした。それなのに、しばらくするとまたぞろ食費をけちって別のものを買ってしまうんですよね。本とかマンガとか蒸留酒とか。で、やはり低血糖でふらふらになっていました。愚かな日々でした。
貧乏ネタは結構あります。
電話はたいていの場合通じませんでした。使用料を払わないでいるとまっさきに止められるのは電話です。次がガス。その次が電気です。さすがに水道は止められたことがありません。水道止めると命にかかわるからですかね?
でも、電気が止まったときは参りました。僕はバカだから、電気がとまったら縁側で月を眺めながら音楽でも聴くさ、と思っていたんですが、電気がとまってるからステレオも当然動かないんですよね。
ガスが止まったときは夏だったので、水風呂を浴びてしのぎました。ガスコンロは使えませんでしたが電気がまだ通っていたので、炊飯器で炊いた熱々のご飯にみそをのせて水で溶いて食べました。
しかしねえ、電気が止まるとキツイですわ。真っ暗ですから何もできません。本も読めませんし、音楽も聴けませんから、やむなく友人宅へ避難しました。
さて、そういった悲惨な事態に至るとこれはもうやむなくバイトをしないといけないわけですが、なんせできるだけ働きたくない人間ですから、必要最低限だけ働こうと考えます。とりあえず一万円分だけ、とか。
そうするとやはり単発のバイトになります。
単発バイトにはいろいろなものがあります。定番は道路交通量調査ですね。何回かやりましたが、僕は眠気に弱く、バイクに2人乗りしているときでさえタンデムシートで眠ってしまうという冒険野郎ですから、交通量調査なんて眠らないはずがない。
はっと気づくとあきらかに何台も車が通りすぎたあと、ということがたびたびあり、しかたなく適当にカチカチカチとカウントしたりしていました。すみません。
眠ってしまうといえば、理容師のためのアイロンパーマ講習でモデルになるというバイトもありました。アイパーというやつですね。もちろん、仕上がりはパンチパーマです。これが眠い。頭があつくなるのでものすごく眠たくなるのです。つい我慢できずに、数十人の理容師に囲まれてよだれを垂れて眠ってしまうのでありました。せっかくパンチパーマ姿になったのに写真をとっておかなかったのが残念。ま、上記のような貧乏生活ですから、写真なんて。
それからだいぶ前に書いたことがありますが、日舞の発表会で照明のバイトをしました。演劇関係のつながりで人手が足りないとか何とかで呼ばれてホイホイ行ったんですね。しかし、ろくすっぽ指導もなく、「上手から出てくるやつに、このスポットを当てろ」とか云われても困るんですよ。とんでもないところを照らし出して、いったい何の演出だ?って感じでした。
いちばん楽だったのは人体実験。というと聞こえが悪いのですが、某製薬会社が開発した新薬のデータをとるというものでした。糖尿病の薬だったかな、とにかくその薬をのんで、15分おきに採血されるというバイトです。6時間ずっと針を刺しっぱなしでしたが、ずっと本読んでいられますから、楽ちんでした。今は注射が苦手ですが、その頃は注射なんかからだじゅうに打たれても平気でした。いやもちろんそんな経験はありませんが。微妙に気持ちがすさんでいたのかもしれません。おなかがすいたら献血に行って、チョコ食べさせてもらってました。
あの苦しい時代に戻りたいとはまったく思いませんが、それでもやはり黄金時代であったという気がします。こんなにだらしない自分はいつか路上生活者になってしまうかもしれないという不安を抱えつつ生きていましたし、将来の展望もまったくありませんでしたが、なんというか、思い返せば貴重な日々です。
「バイトの日々②」へ続く。