シネマ食堂街②
前回、明らかに話の本筋とは関係のないY田M平ばなしでムダに字数を費やしてしまい、肝心な内容にまったく入れませんでした。ちょっと気をぬくと登場するY田M平、油断も隙もないとはこのことです。
さて、とにかく私はカウンター席に座り、男みたいな顔のおばちゃん(たぶん60代半ば)が焼いてくれた鰤を食べながら、ビールを飲み、美空ひばりの唄を聞くともなく聞いていたわけです。
店のママ、つまりさっきからしつこく繰り返していますが男みたいな顔したおばちゃんは、僕が大阪から来たことを知るや、店の奥から1葉の写真を取りだしてきて、
「これ、わたしの好きな男の人なの」
といって見せてくれました。色褪せた古い写真には、いかにも真面目そうな、背広姿のサラリーマンらしき男性がうつっていました。昭和四十年代ふうの黒縁の眼鏡をかけたおじさんです。
「豊中に住んでるのよ」
と男みたいなママは言いました。
残念ながら僕はこういうときなめらかに言葉が出てくる人間ではありません。ただ、「はあ」とか「むう」とかつぶやくだけなのでありましたが、男みたいなママは、うっとりと遠くを見るような目で、
「優しい人なのよ」
「はあ」
「わたしがどうしても会いたくなって」
「むう」
「突然、突然よ」
「はあ」
「迷惑なのはわかっているんだけど、行っちゃったの、でも、ちゃんと駅まで会いに来てくれて・・・・・・」
「むう」
「ひばりぃ~」(これは僕のとなりにいるおばあちゃんの声)
「そう、あなた豊中から来たの」
「いえ、茨木です」
「そうなの」
「ひばりぃ~」
といった感じで、昼下がりから夕方にかけてのひととき、妙に非現実的な時間が流れていくのでありました。
ちなみに、一定の時間間隔で「ひばりぃ~」とつぶやきつづけているおばあちゃんですが、
「あのおばあちゃんね、生活保護を受けてるのよ」
と、おばあちゃんが席をはずしているときに、ママが教えてくれました。
これが、5年ほど前の話です。
さて、ほんとうに濃い話はこれからなんですが、またしても時間がなくなってしまったようです。
つづく!