結婚式のスピーチなら俺に任せろ
先日、今年2回目の結婚式に行ってまいりました。もちろん僕の結婚式ではありません。知人の結婚式にお呼ばれしたのです。
結婚式は嫌いではありません。ただし、スピーチとか乾杯の「ご発声」とか、そういうのがなければ、の話です。
ずっと昔、結婚式でスピーチを頼まれて、新郎も国語講師でしたから、国語講師らしいスピーチにしようと、鮎川信夫の詩の一節を題材にして話を組み立てました。「すべてをうばわれても文句を言えない すべてをあたえられても文句を言えない 理不尽な契約」とかなんとかいう部分(例によって例のごとくうろおぼえ)です。この直前には「無償を意味する愛という言葉は 今でも私を動転させる どうしたらいいかわからなくなる」とかなんとかいう部分(うろおぼえ)があるのですが、そこはまあカットして、何とかこれで良い感じの内容に強引に解釈しちゃえってことで、いろいろ屁理屈を編み出しました。
ところが当日、結婚式に行ってみると、なんと新婦側の主賓が、あの、高名な現代詩人である金時鐘氏! ぐわっと呻いて倒れそうになる私。あの金時鐘の前で、鮎川信夫の詩を引用してスピーチするの? そんなのム~リ~! とは思うものの、今さらスピーチの内容を変更する余裕も能力もない私。
私にできることはただひとつ、金時鐘氏の存在を忘れてしまうまでべろべろに酔っ払うことだけでした……。完璧に暗記したはずのスピーチ内容をちゃんとしゃべれたかどうかおぼえていません。ただ、「鮎川信夫」という名を口にした一瞬だけ、金時鐘氏がこちらをちらっと見たような……。
スピーチはお断りです。