親戚の親戚は親戚だ
日本の旗は日章旗、つまり日の丸ですが、白地に赤丸の旗を最初に使ったのは源氏だと言われます。紅白に分かれての合戦のきっかけになったのは、平家の赤旗と源氏の白旗だということになっていますが、その旗に平家は金色の日輪、源氏は赤色の日輪を描いていたらしい。結果的に源氏が勝ったので、その旗がめでたいとされたのでしょう。今は法律で国旗とさだめられていますが、「君が代」も国歌として法律で定められています。
「君が代」の作詞者はわかりませんが、古今集の詠み人知らずの歌が元になっています。世界一古い歌詞と言ってよいでしょう。メロディはじつは二通りあって、最初はあるイギリス人が作曲してくれたらしい。でも、あまり評判がよくなかったので、宮内省が作りなおしたそうな。他の国の国歌にはかなり闘争的なものもあるのに比べて、日本の国は歌詞も曲もおだやかです。だいたい、石が大きくなるという発想がなかなかのものです。さらに言えば、苔をよいものとしてとらえているのもおもしろいですね。「転石苔むさず」の解釈について、イギリスとアメリカのちがいがよく言われます。イギリスは、ゴロゴロ転がっていると苔がつかないから、一つのところに腰を落ち着けるべきだとします。転がる石はろくでなし、つまり「不良」なんですね。ローリングストーンズというバンドは、自らをそう意識していたからの命名でしょう。アメリカでは、新天地を求めていけば苔のようなものはつかなくてすむという発想です。
英語と米語は細かい部分での文法的ちがいもありますし、表現の仕方もちがっています。それはイギリスとアメリカのものの考え方のちがいの反映でしょう。そうなると、米語を「イングリッシュ」と言ってよいのかどうか。米語をアメリカン・イングリッシュとして、英語の方言の一種と見なす考え方もあるようです。その米語にしても、北部と南部ではかなりちがうようですし、東海岸と西海岸とでも多少のちがいがあると言います。
日本で英語を学んだ者にとってはイギリス人の発音は習った発音記号に沿っていて聞き取りやすいのに、アメリカの映画は何を言っているのか、よく聞き取れません。でも、なぜかトランプ元大統領の言葉はバイデンに比べると、非常に聞き取りやすいなあ。意外に几帳面で、ゆっくりしゃべるせいもあるかもしれません。一説には語彙が少なく小学生レベルの英語だから、と言う人もいるようですが。
日本の天皇も、非常にゆっくり、ていねいにしゃべります。「綸言汗のごとし」ということばがあって、出た汗が元にもどせないように、天皇のことばもいったん口に出したら取り消しがきかないから、ていねいにしゃべることになっているそうです。前の天皇が退位を考えた理由は、高齢による体力の低下だということですが、言いまちがいをする可能性のことを考えたのかもしれません。昭和天皇の玉音放送もゆっくりです。あれはレコードに録音したものですが、そのレコードをめぐって激しい争奪戦があったことも有名です。しかしながら、玉音放送をリアルに聞いた人はかなり少なくなってきています。
「明治・大正・昭和を生き抜いてきた」とよく言ます。三つの時代を生き抜いたというのはすごいなあと思いますが、今の時代「昭和・平成・令和を生き抜いてきた」人も、じつはたくさんいます。でも、「昭和」はすでに「レトロ」な時代として扱われることがあるのですね。戦前ならともかく、前の東京オリンピックの時代が「レトロ」なのかとびっくりしますが、半世紀をこえてしまえば、やはり「レトロ」でしょう。ところが一方では寿命がのびていますから、半世紀の50年というのはそれほど長い時間でもない。「人間五十年」の時代には25歳が折り返し地点なので、何事につけてもサイクルが早かったでしょう。そのころの40歳は初老だったわけです。今や平均寿命が80歳以上ですから、「古来稀なり」と言われた「古稀」も、七十七歳の「喜寿」も楽々こえて「米寿」もありふれ、九十の「傘寿」も目前です。「白寿」となると、さすがにちょっとむずかしい。これは「百歳マイナス一歳」ということで「百」から「一」をとって「白寿」だというのですね。百歳ごえは、それこそ「古希」と言ってもよいかもしれません。永遠の命を願うのは無理だし、年寄りのまま永遠に生きるというのも残酷な話で、だからこそ「不老長寿」を願うのでしょう。「フォーエバーヤング」ですね。
始皇帝が不老長寿を手に入れるために、蓬莱島に遣わしたとされるのが「徐福」という人物です。蓬莱島は方角的に日本ということになってしまい、徐福が上陸したという場所が各地にあります。では、徐福の子孫はどうなったのでしょうか。表に出なくても、その血はなんらかの形で今に伝わっているのかもしれません。長宗我部氏が秦氏の子孫だと自ら言うように、誰かの血筋は意外に途絶えずにつながっていくようです。豊臣家の子孫だって、妻の系譜をたどれば木下家という大名になり、歌人の木下利玄はその子孫です。秀吉の姉の子孫も、藤原氏嫡流の九条家にとついで、その血筋の一人が大正天皇の皇后となっていますから、今の皇室も秀吉の親戚ということとなります。女系のつながりで見ると脈々とつながっている場合があるのですね。大塚ひかりという人の『女系図で見る驚きの日本史』『女系図でみる日本争乱史』などを読むと、ちがう視点での歴史のつながりが見えてきて、すごくおもしろい。
テレビで○○と××が実は遠い親戚だった、という番組があります。親戚の親戚をつないでいけば、思いがけない人とつながることもあるでしょう。遠い親戚にジョン・レノンがいる、なんてわかったらおもしろいでしょうね。授業でたまに高見順の詩を取り上げることがあります。この人の出生はちょっと複雑な事情があるのですが、阪本越郎という、やはり有名な詩人が母親ちがいの兄にあたります。高見順の娘が高見恭子といって、タレントとしてよくテレビに出ていました。阪本越郎の娘は狂言師の野村万作に嫁いでいて、生まれたのが野村萬斎です。高見順の父親の親戚に永井荷風という小説家がいますから、この人たちはみんな親戚です。