アマミノクロウサギの「ノ」って?
別の言葉なのに音が同じ、というのは駄洒落になりますが、普通の同音異義語ではあまり面白くありません。それでも定番の「貴社の記者が汽車で帰社した」を授業で言うと、生徒たちは結構面白がります。一文の中で連発するのを面白く感じるのでしょうか。大人と子どもで言葉の感覚がちがうということがあるのかもしれません。それでも、大人が使わない言葉を若者が使い出すと、いつのまにか大人も使うようになることがあります。「真逆」とか「目線」については前にも書きましたが、たまに聞く言葉として「いつぶり」というのがあります。「ひさしぶりだね。いつぶりだろう」というような使い方です。「いつ以来」と「何年ぶり」とがごっちゃになっているので、誤用は誤用なのですが、大人でも使い出しています。
「いつぶり」という言い方はなぜおかしいのでしょうか。「一年ぶり」はよいのに、「去年ぶり」は変です。「二日ぶり」はよいのに、「一昨日ぶり」は変です。ということは、「ぶり」の前に来るのは「経過した時間」であって、「日時」を表す言葉は来ないということになります。「いつ」というのは時間ではなく日時なので、「いつぶり」と言われると違和感を覚えるのでしょう。ただ、この使い方が載っている辞書もすでにあるようです。やがては認められていくのでしょう。
ところで、「一年ぶり」と言うと、前回は一年前だったことになります。「一月(ひとつき)ぶり」と言うと、前回と今回との間隔は「一か月」です。では、「三日ぶりに会った」と言うのは間に何日あるのでしょう。五日前から順にA日、B日、C日、D日、E日として今日がE日だとすると、前にあったのはどの日でしょうか。「三日前」と考えるとB日ですね。一方、「間に三日ある」と考えるとA日になってしまいますが、この場合の「間の三日」というのは、E日のある時刻からさかのぼってD日の同じぐらいの時刻で「一日」と見ていくので、やはりB日ということになります。ややこしいと言えばややこしい。
「~から~まで」の場合、「1から10まで」と言うと1も10も含みます。つまり数字は10個あることになります。これは「1から10までの間に数字はいくつある?」と聞いても同じ答えになるでしょうか。もっと具体的に言うと、阪急神戸線で「梅田から十三まで、駅はいくつある?」と聞くと「梅田・中津・十三」の三つですが、「梅田から十三までの間に、駅はいくつある?」と聞くと「中津」だけと答えたくなるのでは? 「梅田と十三の間に」と聞くと、これは「中津」だけということになりそうです。「いくつ目」というのも、ちょっとややこしい。「A、B、C、D…」と並んでいて、「左から三つ目は?」と聞かれたらCですが、「Aから三つ目は?」と聞かれたら、どう答えますか。「A」を一つ目とするなら「C」ですが、「D」と答えたら×でしょうか。「B」はAからいくつ目なのでしょうか。
足掛け何年というのもあります。辞書では、「年月を数えるときに、初めと終わりの1年、1月、1日に満たない端数も一とする数え方」のように説明していますが、非常にわかりにくい。例をあげるとすぐにわかります。たとえば「一年一か月」たった期間を「足掛け二年」と言います。ということは、2025年12月31日から2027年1月1日までなら、実質12か月と2日なのに「足掛け三年」と数えることになります。足掛けの反対は「丸」とか「満」になりますが、もちろんジャストではなくアバウトでもかまいません。
「創業1400年」と「1400年創業」ではどうちがうでしょうか。前者は会社ができてから1400年たったという意味ですが、後者は西暦1400年に会社ができたということになります。「創業1400年」の会社として有名な金剛組は、調べてみたら「飛鳥時代第30代敏達天皇7年(西暦578年)」と書かれていました。つまり、「578年創業」ということですね。敏達天皇は聖徳太子の父の用明天皇の兄ですから、伯父さんということになります。578年ということは、当然いわゆる「大化の改新」よりずっと前です。
この「大化の改新」というのも、昔は645年ということになっていました。「大化の改新むしごろし」という、訳のわからない覚え方で教えられていましたが、いまは中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我入鹿を暗殺した事件は「乙巳の変」であり、事件そのものと改革とを区別するようになっているみたいですね。この時代もなかなかおもしろいので、大河ドラマでとりあげても面白そうです。新説や異説をとり入れて大胆に脚色していけばドラマとしても見応えがあるものになりそうです。
NHKでは、聖徳太子を本木雅弘が演じたドラマをやったことがあります。これは原作の小説はなかったと思いますが、テレビドラマとしては最も古い時代を扱ったものの一つでしょう。井上靖の『額田女王』をドラマにしたものもありました。額田は岩下志麻、天智が近藤正臣、天武には松平健という配役でした。大河の『草燃える』で岩下志麻が北条政子、松平健が北条義時を演じた直後で、松平健の評価が高まっていたときですね。思い切って神話の時代を扱ったドラマがあってもよさそうですが、テレビではやりにくいのかなあ。映画では、『日本誕生』」など、神話を題材にしたものはいくつかあります。ヤマトタケルを三船敏郎が演じているのですが、すごく大根…。シナリオ自体も今から見ると、稚拙そのものだし、円谷英二の特撮も悲しくなるレベルです。高島政宏主演の『ヤマトタケル』というのもありましたが、これは完全にアニメの世界で、見事なほどのばかばかしさでした。
でも、今の子どもたちは日本神話をほとんど知らないのですね。戦後教育で排斥されたこともあって、触れる機会も少なくなっているのでしょう。もちろん歴史として教える必要はないでしょうが、なんらかの形で接するチャンスがあればいいですね。八岐大蛇や因幡の白兎の話ぐらいは常識として知っておいてもらいたいものです。アマミノクロウサギは「因幡の白兎」との対比かなあ。