獏はすごい
『宇宙大作戦』の主人公はカーク船長で、ウィリアム・シャトナーが演じていました。この人は『スパイ大作戦』にもゲストとして出ています。ミスター・スポック役のレナード・ニモイも一時期『スパイ大作戦』のレギュラーでした。このころは「ナントカ大作戦」というタイトルがはやっていたのでしょうね。邦画のタイトルにもありましたし、洋画の邦題にもありました。ただ、なんとなくB級映画っぽい感じもします。「大作戦」という言葉が大げさすぎて、逆に滑稽な感じがするのでしょう。『プロポーズ大作戦』というバラエティ番組もありましたが、これは完全にお笑い系でした。
『スパイ大作戦』は映画『ミッション・インポッシブル』としてリメイクされました。テレビドラマは映画に比べるとさすがにスケールは小さいのですが、ウィリアム・シャトナーが出たときの話はなかなかストーリーや設定がおもしろいものでした。ウィリアム・シャトナーはある犯罪組織の幹部で、なかなか尻尾をつかませません。なんとか逮捕するために仕掛けた罠が戦争前の時代にタイムスリップしたと思わせるというトンデモ設定です。老幹部を睡眠薬かなんかで眠らせている間に若作りの特殊メイクをほどこし、歩けない脚を補強して走れるようにしたり、強引すぎる荒業が繰り広げられます。実際の撮影では、当時まだ若かったウィリアム・シャトナーに老人メイクをして登場させていたわけで、そのあたりのアイデアがなかなかの優れものです。全体的には、アラが目立つところもあったのですが、話としては十分楽しめました。
最近は動画配信サービスがいろいろあるせいなのか、テレビでの外国ドラマが少なくなっています。たまにNHKでやるぐらいですが、昔は面白いシリーズものも多くありました。『宇宙家族ロビンソン』というのも面白かったなあ。『原子力潜水艦シービュー号』や『タイムトンネル』も同じ人が作ったようで、面白いのも当然でしょう。人口問題で悩む人類が宇宙移住計画を立て、ロビンソン一家がある星を目指します。ところが、スパイが宇宙船に紛れ込んでいたために、目的の星にたどりつけなくなるという話です。ただし、そういう設定の割には話はハードなものではなく、どちらかというとおちゃらけで、お気楽に見られるドラマでした。
今年のNHK大河ドラマは一回目からの「おちゃらけ」が痛々しくて見ておられず、はやばやと脱落しました。去年の『鎌倉殿の13人』も、三谷幸喜脚本だけあって、初回から「おちゃらけ」要素があったものの、主人公が最終的に「ダーク義時」になっていく過程がなかなか楽しめました。毎回、だれかが命を落としていくという、NHKらしからぬ陰惨さは、朝ドラの「ちむどんどん」に対して「死ぬどんどん」と言われたぐらいです。『鎌倉殿の13人』では、鎌倉最大のミステリーと言われる実朝暗殺がどのように描かれるのかが注目されていました。三浦義村にたきつけられた公暁が、父頼家の仇として実朝・義時暗殺を計画することになっています。つまり公暁単独犯という立場ですが、義村のそそのかしもあり、御所を京に移そうと考えている実朝に愛想を尽かした義時もあえて黙認しています。わりと納得できるなかなかの解釈だったのではないかと思います。
永井路子は、実朝と義時を公暁に暗殺させて、自分が執権になろうとしたのではないかという、義村黒幕説を唱えました。それまでは義時黒幕説が有力だったのが、永井路子は『炎環』という小説で義村にスポットライトを当てたのでした。ただ、どちらも論証に弱いところがあるとされて、新しく主流になってきたのが、公暁単独犯説です。三谷脚本はそのあたりをうまくミックスさせて、なるほどと思わせる着地点を見つけています。
知名度は低いのですが、このドラマには平賀朝雅という人物が出てきました。畠山重忠の息子と口論したことがきっかけで、畠山重忠の乱が起こります。朝雅は北条時政の娘婿だったので、時政が畠山一族を滅ぼすのですね。ところが、これが原因となって、時政と義時の間にひびがはいり、時政の後妻が中心となって朝雅を将軍に擁立しようとするのですが、これが失敗、時政は伊豆に幽閉され、朝雅も討たれます。この朝雅という人は、平賀と名乗っていますが、れっきとした源氏の一門で、「朝」の字は頼朝からもらったものです。だからこそ、将軍にかつぎあげようとされたわけですし、御家人としては別格の存在だったようです。源義家の弟義光の系統の源氏で、平賀は信州の地名です。
平賀という姓はやや珍しい部類に属するのでしょうが、平賀と言えば源内を思いつきます。ただし、朝雅の子孫というわけではなさそうです。同じ名字でもちがう一族というのはよくあります。平賀という土地に住み着いた一族が平賀氏を名乗り、滅んだあと、別の一族がその地に住み着いて平賀氏を名乗る、というようなことはよくあったようです。源内は日本のダヴィンチとも言われます。今で言えば、マルチ・クリエイターでしょうか。エレキテルで有名なので発明家と思われがちですが、博物学者でもあります。当時の言葉で言えば本草学ですし、地質学者、蘭学者と言ってもよいかもしれません。さらには画家でもあり、作家でもあり、俳人でもあり、陶芸家でもあり、事業家でもあります。最後には二人の人を殺傷して獄死するという波瀾万丈の人生を送った人です。
夢枕獏に『大江戸恐龍伝』という大長編小説があります。これは平賀源内が主人公の小説です。源内は龍の骨が発見されたという噂を聞いて、確かめようとします。その後、円山応挙とともに、ある寺を訪ねた結果、一人の僧侶の名前を知ることになります。亡くなった僧侶の遺品には謎の絵があり、「ニルヤカナヤ」という土地の名を言い残したことがわかります。沖縄などで言い伝えられる、海の彼方にあるとされる異界は「ニライカナイ」と言いますね。だいたいこのへんでワクワクしてきます。さらに、上田秋成や長谷川平蔵といった有名人も登場します。しかも冒頭に二人の人物にささげるということが書かれているのですが、その二人とはゴジラとキングコングの生みの親なんですね。伝奇小説であり、秘境冒険小説であり、暗号解読まであるという奇想天外の作品です。こういうばかばかしくも面白い作品を書ける夢枕獏はすごい。文章がわざとらしく、鼻につくのが欠点ですが。