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2020年3月 7日 (土)

○○に毛がなし

一世を風靡した(それほどでもないか)「騎馬民族説」というのもありました。大陸からやってきた騎馬軍団に征服されたというやつですね。今は完全に否定されているようで、たしかにその後も日本の馬は小さいままです。畠山重忠のかついだ馬も、それほど大きくなかったのでしょう。同時期の有名な馬としては「いけずき」「するすみ」がいます。両方とも、もともと源頼朝の持っていた馬ですが、梶原源太景季が「いけずき」を所望したのに、なぜか頼朝は「するすみ」を与えます。しばらくして、またまたなぜか頼朝は「いけずき」を佐々木四郎高綱に与えてしまいます。感激した高綱は、この馬で宇治川の先陣を切ると誓います。ところが、まず飛び出したのは、するすみに乗った景季、いけずきに乗った高綱は、「馬の腹帯が緩んでいる」と言って景季をだまして先陣を切る、という「ひきょう」な話です。

中国で有名な馬といえば、なんといっても呂布の乗っていた赤兎馬でしょう。なにしろ「人中に呂布あり、馬中に赤兎あり」と言われるぐらいですから。はじめ董卓が持っていた馬ですが、呂布と義父の丁原を離間させるために呂布に与えられます。後に呂布を討った曹操の手に移りますが、気性が荒く誰も乗りこなせません。ちょうどそのとき、曹操のもとにとどまっていた関羽を自分の家来にしようとして、今度は関羽に与えます。さすが関羽で、見事に乗りこなすのですね。関羽は「この馬は一日に千里を駆けると言う。劉備の行方がわかったら、一日にして会うことができる」と大喜びしたので、曹操はがっかりした、という話があります。その後、さらに別の人に与えられますが、何も食べずに死んでしまった、という後日談もあります。

騅という名馬もいます。「すい」と読みますが、これは項羽の馬ですね。垓下にたてこもった項羽は「自分の力は山を抜き、覇気は世を覆うほどであるというのに、時勢は不利であり、騅も前に進もうとはしない。騅が進まないのはどうしたらよいのだろうか」という詩を残しています。大横綱の双葉山に後援会が「力抜山」と書かれた化粧まわしを贈ろうとしたところ、このままでは「力抜け山」と読まれるので、「抜山」だけにしてくれと言った、とか。結局、項羽はそのあと壮絶な最期を遂げます。項羽と劉邦の覇権争いに大きく関わってくるのが、韓信ですが、この人物の立ち位置が今ひとつよくわかりません。張良・蕭何とともに漢の三傑の一人とされるのですが、謀反の罪で殺されます。『項羽と劉邦 鴻門の会』という中国映画では、項羽のもとにいた韓信を大将軍に推薦し、劉邦に漢統一を成し遂げさせた蕭何は「韓信は決して謀反を図ることはない」と必死で弁明します。しかし、猜疑心にとらわれた劉邦は聞き入れません。呂后も「鴻門の会で劉邦を許した項羽は結局滅ぼされた。韓信は項羽を裏切って劉邦のもとにやってきた男なので、いま韓信を許せば、やがて漢は韓信に滅ぼされる」と言い、公の記録にも「韓信は謀反した」と書かせて処刑します。

張良は名軍師ですが、それをしのぐ中国史上最大の軍師は諸葛孔明ということになっています。日本ではどうでしょう。竹中半兵衛、黒田官兵衛が有名です。楠木正成は軍師になるのかなあ。軍学者という位置づけかもしれません。そういえば、大河ドラマの主人公として、ついに光秀が登場しました。裏切り、主人殺しという負のイメージがあるだけに、そこをどう描くかが難しそうです。肯定的なとらえ方をするよりも、むしろダーク光秀で押し切って、「ノワール大河」にするのもおもしろいと思うのですが。

どういうものが受けるか予測もつかないこともあります。人気のなかった応仁の乱がブームになりました。足利義政が東山を選んだ理由を「ブラタモリ」でやっていました。東山の別荘は、目の前に吉田山(断層の端)があって都を見ないですんだからだ、というのはなるほどね、と思いました。銀閣の構造も一階と二階とで、正面の向きがちがうようですが、どちらにしても都に対して背を向けています。慈照寺が銀閣と呼ばれるようになったのは金閣との対比でしょうか。銀箔を張る予定だったのが、応仁の乱で財政が苦しくなって実現しなかったという説もありますし、銀箔を貼るつもりはまったくなく、金閣との対比で、太陽のイメージの金閣、月のイメージの銀閣として、なんて説もあります。

金ではなく、あえて銀にしたのは義政が義満に遠慮したためだと習いました。ところが逆に当時は金よりも銀のほうが値打ちがあったので俺の方が上だという優越感の表れだ、という人もいるようです。いくらなんでもそれは言い過ぎで、銀よりも金のほうが値打ちがあるでしょう。松竹梅はどれが上でしょうか。「梅」のはなやかさを考えたら「松」より上に置いてもよさそうですが…。「優」と「秀」も、「優勝」が一位になるわけだし、「秀才」は「天才」より劣りそうなので、「優」のほうが上のような気もします。「馬鹿」と「あほ」はどちらが上でしょうね。「上」ということばは、どちらの意味でもとれそうですが…。「あほ」と「どあほ」では、「ど」が付くだけレベルが高そうですが、「どあほ」と「あほんだら」ではどうでしょう。

アイスクリームにコーヒーなどをかけて食す「アフォガード」というのが世の中にはあるそうな。「あほな護衛」みたいで、音のイメージがよくないですね。ただ、これは「アフォガート」が正しいと言う人がいます。濁点の有無ですが、これは問題になるときとならないときがあります。「世の中は澄むと濁るで大ちがいハケに毛がありハゲに毛がなし」ということばもあり、「窓ガラス」は「ガラス」で「旅ガラス」は「カラス」です。どうでもいいといえばどうでもいいのですが…。「ベッド」も「ベット」と言う人もいました。「アボガド」は「アボカド」が正しいと言う人がいますし、「ジャンバー」も「ジャンパー」に変わりました。でも、外来語をカタカナで表記した時点で厳密な音にはなっていないはずです。スワヒリ語をカタカナで表記できるでしょうか。もっとも「ホッタイモイジクルナ」が通じるわけですから、元来発音はいいかげんなはずです。東北の人が発音すれば「寿司」も「獅子」も「煤」も「スス」になってしまうわけですし、大阪人は「きつねうどん」を「けつねうろん」と発音し、それが通じるわけですから。

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