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2024年4月 7日 (日)

アホックサー

ビル・プロンジーニの作品で、「名無しの探偵」というのがありましたが、これは工夫しだいで何とか書けるでしょう。語り手が一人称を使わない小説となると、これはかなり苦労しそうです。だれだったかチャレンジしてみたけれど、一カ所だけどうしても使わなければならなくなって、苦し紛れに「こちら」という言葉でごまかした、という人がいました。叙述トリックというものがあって、たとえば語り手が男だと思っていたら実は女であり、全体の設定をまちがって解釈したために見事にだまされる、などということがあります。ただ、日本語の場合、男性と女性で一人称代名詞が違うので、このトリックは使いにくい。「私」という言葉ぐらいしか利用できるものはなさそうなので、自由な設定のストーリーにしにくいかもしれません。そういう場合、名前も男女共通で使える名前にしていることもよくあります。勝手に思い込ませることができたら作者の勝ち、ということで、逆に言えば思い込みがいかに危険かということでもあります。

前にも書きしたが、『巨人の星』のテーマソングの「思い込んだら」の部分で、主人公がグラウンドをならすローラーをひっぱっている絵と重ねて、「重いコンダラー」と聞きなして、あのローラーのことを「コンダラー」と言うのだ、と思い込んでいた人もいます(ホントかウソか知りませんが)。次の例も前に書いたはずですが、ひろし君とたかし君は顔がそっくりで名字もいっしょ、父親の名前も母親の名前もいっしょ、生年月日もいっしょなのに「ふたごか」と聞くと「ちがう」と言う。なぜか?という、しょうもない問題があります。答えは、ひろし君とたかし君は「三つ子のうちの二人」。車にはねられ病院に運ばれてきた男の子。出てきた医者が「なんということだ。これは私の息子だ」と言う。男の子に、「この人、君のお父さん?」と聞くと「ちがう」と言う。なぜ? 答えは「お母さん」。たしかに女医であっても何の不思議もありませんが、なんとなく、こんな場合、男性の医者だと思い込んでしまうのですね。テストでも、いつも「最も適当なものを選べ」なので、たまに「不適当なものを選べ」と出されると、ひっかかる者が多いようです。

世の中によくある詐欺事件も、人間の心理、盲点を巧みに突いて、ひっかけているのでしょう。有栖川事件も人間の見栄や欲望を見事に突いていましたし、オレオレ詐欺(今は「振り込め詐欺」になってしまいましたが)も、子供への愛情があるためにだまされるのでしょう。詐欺師を主人公にしたドラマ、コンゲームが面白い理由も、そういう人の心理を巧みに突く面白さにあります。『スパイ大作戦』も同様で、いかにだますか、いかにだまされるかが興味の対象になります。前に書いた「カーク船長」がだまされた話や、「スポック」役のレナード・ニモイが出ていたのも面白かった。

この人たちが出ていた『スタートレック』は面白かったのに、船長役が別の人に変わってからは面白みが減ったような気がします。それでも『スターウォーズ』よりマシでした。なぜ『スターウォーズ』は面白くなかったのでしょう。一作目はすごく期待していたのに、三船敏郎が予想したように「B級三流映画」にしか思えず、ワクワク感がほとんどありませんでした。主役やお姫様に魅力が感じられないというのも大きかったのでしょう。モタモタした筋運びで、あっとおどろく展開もなく、「SFチャンバラ」と割り切っても、心が動かされませんでした。記憶に残っているのは空中戦の「特撮」だけです。ルーカスって、言われるほど才能があったのかなあ。スピルバーグは子供が喜ぶものを大人でも喜べるように、大人が作った、という感じですが、ルーカスは、子供が喜ぶものを子供が作った、という感じです。なお、以上の内容については一切異論反論は受け付けません。これって、私の感想ですよね。エビデンスやデータもありません。まあ、ルーカス・ファンの前では沈黙するしかないですが。

たしかに熱狂的なファンというものは何につけてもいますね。「おたく」レベルの人たちです。最近よくニュースになるのは「鉄ちゃん」の暴走ですね。入ってはいけないところに侵入して写真を撮ったり、駅員と取っ組み合いのケンカをしたり。彼らが好きなのは「鉄道」の何なのでしょう。車両という機械なのか、駅の構造なのか、鉄道のシステムなのか、よくわかりませんが…。乗り鉄と撮り鉄では、ちがう人種のような気がします。まあ、たしかに映画ファンと言ってもアクション好きもいればラブコメ好きもいるわけですから、いろんな人がいるのでしょう。

昔は時刻表マニアというのもいました。最近はどうなのでしょうか。時刻表を調べ尽くしてトリックを作り、小説にしていくというのもありました。『黒いトランク』で有名な鮎川哲也はよく読みました。トラベルミステリーの大御所、西村京太郎は2時間ドラマで食傷気味になって、実はトラベルミステリーはほとんど読んでいません。時刻表トリックと言えば、なんと言っても松本清張の『点と線』です。日本推理小説界の金字塔といってよいでしょう。クロフツが確立したアリバイ崩しですが、鉄道にこだわるあまり、作者は飛行機の存在を忘れていたようです。戦後十年以上たって、すでに旅客機が飛んでいたのですね。さらに言えば、今から何十年も前の作品ですから、今の感覚に合わないところがあるのも当然です。今のように、スマホがあれば何ら困らないことで犯人たちは悩んでしまうことになります。

まあ、こういう鉄道トリックが成立するのはダイヤが正確だからです。わずか数分のスキを狙って乗り換えるなんて、日本ならではのトリックでしょう。いくら綿密に計画を練っていても、人身事故が起こるとパアです。不確定要素があるものをトリックに取り込むのは現実では不可能といってよいでしょう。というより、「密室殺人」とか「見立て殺人」とか、推理小説では「王道」ですが、現実にはほぼありえません。ただ、今の時代、小説の真似をする「模倣犯」はいるかもなあ。目立ちたがりの「バカッター」と呼ばれる人も絶えないことだし。あ、この言葉は「バカ」と「ツイッター」のミックスだから、「ツイッター」が「X」になって、「アホックサー」になったと言ってた人がいたけれど、定着しているのかなあ。

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