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2020年5月10日 (日)

国語科講師からのリレーメッセージ⑭「手紙」

第14弾は山添tr! ナウいヤングです。

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拝啓

 

 行く春を惜しむ間もなく汗ばむ陽気となりましたが、皆様いかがお過ごしですか。

 

 ブログの記事だというのになぜこのような手紙めいた書き出しにしたのかというと、それはこのたびの外出自粛中に鑑賞した、とあるアニメーション作品に触発されたためなのです。

 

 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

 

 美しいタイトルにまったく名前負けしない、すばらしい作品でした。

 主人公のヴァイオレットは、幼いころから軍隊に所属し、敵と戦うための"道具"として生きてきました。そのため彼女は、感情を持たないまま成長してしまいます。戦争が終わり、彼女に残されたのは、自分を庇護してくれた上官ギルベルト少佐が最後に告げた「愛してる」という言葉だけ。しかし、感情を持たないヴァイオレットには、この言葉の意味が理解できませんでした。そんな中、彼女は「自動手記人形」という仕事に出会います。かんたんに言えば手紙の代筆です。依頼主の気持ちを、依頼主の代わりに言葉に代えて手紙を書く。この仕事を通して、ヴァイオレットは徐々に"愛"を知っていく‥‥‥。

 手紙の代筆で愛を学ぶ。すてきなお話だと思いませんか。電子メールやLINEなどのメッセージアプリが普及した今の世の中、わざわざ手紙を書く人は激減しました。かくいう私も、最後に手紙を書いたのはいつだったか思い出せません。たかだか二十数年しか生きていないのにもう記憶に残っていないとなると、子どものころに何度か書いたくらいで、ほとんど経験がないということなのでしょう。しかし先日、久しぶりに手書きの手紙をいただく機会がありました。普段のメールの何百通分もうれしい気持ちになります。やはりメールより紙の文書のほうが、それもできれば手書きのほうが、気持ちが伝わりやすい。

 それはおそらく、こめられた思いの差なのでしょう。LINEは便利で楽で、気軽に使えてしまいます。だから人は言葉に思いをのせることを忘れてしまう。手紙を書こうとするとなんだか気が重くなります。でもだからこそ、手紙には差出人の思いが強くこめられる。差出人は相手のことを考えながら文字をしたためて、封をする。物理的な封などではとても閉じふさげないその思いは、読まれたとたんに一気にあふれだす。さらにそれは周りの人々にまで響いていく。もちろんヴァイオレットにも。たくさんの人々の思いが彼女に響いて彼女の心を揺り動かしていく様子を、美しい映像と音楽で丁寧に描き出したこの作品に、私も心を震わせられました。

 

 手紙には書き手の強い思いがこめられる。その思いは現実とフィクションの垣根をも飛び越えます。小説の中には、登場人物が書いた手紙を連ねることによってストーリーを進めていくものがあり、これを書簡体小説といいます。書簡とは手紙の別の言い方です。小説でも、手紙の形にすることで手紙の書き手の心理をありありと描き出すことができるのです。

 例えば、ドイツの文豪ゲーテの『若きウェルテルの悩み』。青年ウェルテルが婚約者のいる女性シャルロッテに恋をし、叶わぬ思いに絶望し自ら命を絶ってしまう物語です。主に主人公ウェルテルが書いた手紙によって構成されています。この本は出版当時ヨーロッパでベストセラー となり、この本に影響された若者たちがウェルテルをまねて次々と自殺するという事態にまで発展しました。それほどに、手紙は書き手の思いを読み手に届けるのだ、といえるかもしれません。

 ほかにも有名どころでいえばイギリスの作家メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』があります。あの四角い縦長の顔をした怪物の絵や写真を、だれもが一度は目にしたことがあるはずです。しかしその原作小説を読んだことのある人は案外少ないのではないでしょうか。この本も、冒頭はウォルトンという青年が姉に宛てて書いた手紙から物語がはじまります。読んでみると分かりますが、実はこわいというよりとても悲しいお話です。興味があれば読んでみてください。ちなみによく勘違いされますが、あの有名な怪物は「フランケンシュタイン」ではありません。「フランケンシュタイン」とは怪物をつくった博士の名前です。あの怪物に名前はありません。

 

 このように手紙についてあれこれと考えているうちに、なんだか私も手紙を書きたくなってきたのです。そしてちょうど今回、ありがたくも皆さんにメッセージをお伝えする機会をいただきました。ブログという形ではありますが、私なりに皆さんへの精一杯の思いをこめてしたためます。いつも希学園で元気にがんばる姿を見せてくれて、ほんとうにありがとう。君たちの一生懸命勉強している姿に、私はいつも励まされています。君たちのおかげで、私もがんばろうと思えるのです。自分のしてきた努力に誇りをもってください。私の小学生のころなど、君たちの足元にも及びませんでした。いや、もしかしたら今でも及ばないかも。学びや努力を楽しむことができる君たちは、私にとってはあこがれの存在です。今はカメラ越しにしかお会いすることができませんが、また教室で元気に学ぶ姿が見られることを楽しみにしています。そしていつか皆さんに、今度はちゃんと手書きの手紙を送る機会があればいいなあと心から思います。

 皆さんも、だれかに思いをこめた手紙を書いてみてはいかがでしょうか。友達でも、家族でも、普段は会えないおじいちゃんおばあちゃんや親戚でもかまいません。人との接触を避けなければならない今、大事なのは人と人とがコミュニケーションをとることです。言葉で思いを伝え合うことです。手紙は今は会えない人と人を結んでくれます。実際に会うよりもずっと強く結びつけてくれます。手紙を一通書くだけで、国語の授業何時間分も人として成長できると思います。ぜひ一度、相手のことを思って、じっくりと丁寧に言葉を紡いでみてください。

 

 では、また授業でお会いしましょう。

 

                                                 敬具

  令和二年五月五日

                                               山添唯斗

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