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2023年6月 1日 (木)

ダジャレで終わるの巻

「獏」というのは想像上の動物で、象の鼻、犀の目、虎の足、牛の尾を持つと言われます。神様が動物をつくるときに余ったパーツからできたのが獏だという説もあるとか。昔の中国では守護獣とされ、枕元などに漠の置物を置いて寝たそうです。一方で、寝ている間に魂が体から抜け出るという俗信もあったらしい。その魂が悪いものにとられないように獏が守ってくれる、というところから、悪夢を払う霊獣と見なされるようになったのでしょう。そして日本に伝わると、そのまま「夢を食べる」ということになりました。「夢枕獏」というペンネームは当然そこから来ています。

現実にも「バク」という動物がいます。アリクイみたいな感じの動物ですが、似ていると思われたのでしょうか。同じく想像上の霊獣「麒麟」も、「キリン」という実在の動物とはなんの関係もありません。大河ドラマでもやっていましたが、聖人が出て理想的な政治が行われるときに麒麟が現れることになっています。顔は竜みたいですが、角は一本ですね。体は鹿っぽくて、金色の毛が生えています。ビールのラベルに描かれているやつですね。とにかく、動物園にいる「キリン」とは似ても似つかない姿ですが、似ていると思ってだれかが名付けたのでしょう。

竜は、実在の動物には名付けられていません。西洋のドラゴンを「竜」と訳してしまったのは、ぴったりする言葉がなかったのかもしれませんが、ドラゴンと竜はかなり形がちがいます。映画の「ネバーエンディング・ストーリー」のファルコンは体は竜っぽいのに、顔はどう見ても犬でした。「恐竜」の「竜」も、実は「は虫類」と言うか「とかげ」のイメージですね。「恐竜」は英語で「ダイナソー」と言いますが、「ソー」は「サウルス」つまり「とかげ」です。「ティラノサウルス」は「暴君竜」と訳すと強そうですが、「暴君とかげ」と訳すと弱っちいくせにいばりちらすチンピラみたいです。「レックス」が付くと「王」になるので、ちょっとマシですが。

東の青竜に対して西の白虎も四神獣の一つです。四神の中で最も高齢という説と最も若いという説の両方があるようですが、会津藩の白虎隊は最も若い部隊の名前でした。白虎と言っても、実在のホワイトタイガーとは違って、かなり細長いイメージがあります。高松塚だかキトラ古墳だかの壁画に描かれていた白虎も細長くて弱っちい感じでした。現実のホワイトタイガーも縁起がいいとされていて、インドでは神の使いというレベルの扱いになるそうです。南をつかさどる朱雀は赤い鳳凰という感じで、北の玄武は脚の長い亀に蛇が巻き付いた形で描かれることが多いようですが、しっぽが蛇の形になっていることもあります。

いくつかの動物が合体した「キメラ」に対して、人は一種の畏れを感じることがあるのでしょう。ギリシア神話では、体はヤギで顔はライオン、しっぽは蛇になっています。ペガサスは羽のはえた馬ですが、キメラと見ることもできますし、ライオンの胴体にワシの頭と翼があるグリフォンというのもいます。フランケンシュタインのモンスターは何人かの死体の一部の合成ですから、一種のキメラでしょう。日本でも「鵺」というのがいます。「ぬえ」と読みますが、トラツグミという鳥の鳴き声が不気味なので、この鳥の声が妖怪の「鵺」の鳴き声だと思われていたそうです。「鵺の鳴く夜は恐ろしい」というキャッチコピーの映画がありました。横溝正史の『悪霊島』です。なぜか、ビートルズの「レット・イット・ビー」がパックに流れていました。

キメラとしての「鵺」は『平家物語』では、猿と狸と虎と蛇の合体動物として描かれています。堀河天皇がその鳴き声を耳にして病気になったとき、源義家が弓の音を鳴らして名乗りをあげると天皇の苦しみが和らいだと言います。矢をつがえずに弓の音を立てるのは「鳴弦の儀」とか「弦うちの儀」とか言って、魔除けの儀式です。後には高い音をたてる鏑矢を使って射る儀式も行われ、これは「蟇目の儀」と言います。要するに音を立てることによって邪を払うことができると考えたのですね。神社で鈴を鳴らしたり、柏手を打ったりするのも、本来はそういう意味かもしれません。火の用心の拍子木も同様でしょうし、西洋の結婚式のあとハネムーンに向かう車の後ろに空き缶をつけてガラガラ鳴らしながら走るのも根は同じかもしれません。洋の東西を問わず、音を立てることで悪霊が近づけないようにするという考えがあったのでしょう。

さて、近衛天皇のときにも堀河天皇のときと同じようなことが起こったので、先例にならって源頼政が呼ばれました。たずさえた弓は源頼光の持っていたもので、見事に鵺を矢で射て退治しました。そのときほととぎすの鳴き声が空から聞こえたので、藤原頼長が「ほととぎす名をも雲居にあぐるかな」と詠むと、頼政は「弓はり月のいるにまかせて」と下の句をつけた、という有名な話です。頼政は武勇だけでなく、歌の道にも優れていたという逸話ですね。鵺の死骸は丸木舟に入れて流されたそうですが、そんなものが流れてきたら下流では大騒ぎだったでしょう。都島には鵺塚の祠が今もあります。流れ着いた鵺の亡霊を主人公にした謡曲のタイトルはそのままズバリ『鵺』です。ちなみに、この「鵺事件」は何代か後の天皇のときにも起こり、頼政は再び手柄を立て、その恩賞として伊豆の国を賜りました。何度も起こるというのは、「鵺」って妖怪ではなく、朝廷に対する不平分子だったのかも? で、頼政失脚後、伊豆の国が平氏のものになって…という話は前に書いたような気がします。

化け物退治で有名な人としては、ほかに田原藤太秀郷がいます。「藤太」と言うぐらいですから藤原氏の長男です。「田原」はおそらく地名、「田原の住人である藤原氏の長男」ということです。平将門の乱を鎮圧したことで有名で、その子孫は栄え、特に佐藤姓の発祥とされています。この秀郷が退治したのは、なんとムカデ。たかがムカデぐらいでなぜ有名になるのだといぶかる向きもあるでしょうが、なみのムカデではなく、三上山を七巻き半する大ムカデなのです。これに対抗するために秀郷は「克己」と書かれた「鉢巻き」をしていきました。なぜなら「ハチマキ」は「七巻き半」より上だから。うーん、実にくだらん。

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