孝玉コンビ復活
古い言い伝えが、時代がたつにつれて「伝言ゲーム」のようになっていくことがあります。伝わるうちに、元の形とは似ても似つかないことになっているかもしれません。そういう意味で、半村良の『庄ノ内民話考』という作品は、なかなかおもしろかった。東北の「庄内」を思わせる名前ですが、実は「しょうもない」という意味の「庄ノ内」地方に伝わるいくつかの民話を紹介するという形式になっています。たとえば、妙な風体をした旅人を相手に、石ころと黄金を交換して長者になる話。いかにも「よくある」ですが…。あるいは、やはり妙な風体をした男が座っていた奇妙な腰かけに村の子供が座り、どこかに手が触れると、それが宙に浮いて飛んでいった話。村に迷い込んできた、しゃべれない男をあわれんで、走り使いをさせて食べられるようにしてやろうと用事を言いつけると、昼夜分かたず寝ないで働き、誰よりも長生きしたという話。さらに、あるところの石段の、ある石を踏むと、見知らぬ遠い場所に行けるという「どこでも石段」の話。最後に「あとがき」がついており、実はこれらは、大昔、宇宙人がやったきたことを表しているのではないかと解説されます。彼らの目的は交易であり、妙な腰掛けは彼らの乗ってきたロケットの脱出用装置だったのではないか。かれらを手伝うアンドロイドがいたり、瞬間移動装置まで持っていたりしたのではないか…。もちろん、「あとがきの仮説ありき」で、半村良は、それらに沿った、それらしい民話を創作しているのです。
実際に、神話や伝説の中に古代の事実の記憶が残されている場合もあるでしよう。神話に含まれる真実として有名なのが「ノアの方舟」の洪水ですね。記録に残らない真実というものがたくさんあったはずです。中には、当たり前すぎて書かないものもあったでしょうし、書くとまずいので書けないものもあったかもしれません。書かれていない部分は、書かれているものをもとにして、ある程度「推理」しなければならないわけですが、どこまでが「推理」で、どこまでが「想像」になるのかが難しい。つまり、歴史解釈で「想像」はどこまで許されるか、ということです。
どう解釈するかは人によってちがって当たり前でしょうし、新しい事実が発見されると解釈も変わってくることがあるでしょう。鎌倉幕府の成立をいつと見るか、というのはたしかに解釈の問題です。あるいはどう定義するかのちがいでしょう。事実は一つですが、真実は、となるとなかなか難しい。世の中には「陰謀論」というものもあります。公式のものをひっくり返すおもしろさがあるので、人をひきつけるのでしょう。いわゆる「偽史」も同様です。そもそも、小説の中には「ほら話」と言ったほうがよいものもあります。SFのおもしろさはそこにあるのでしょう。
昔、NHKでやっていた『タイムトンネル』というドラマはなかなかおもしろかった。アメリカの砂漠の地下にある研究所で、タイムトラベルができるトンネル装置がつくられます。ただ、未完成の段階で一人の科学者がトンネルに入ってしまい、それを追いかけたもう一人の科学者とともに、もどれないまま過去と未来をさまようという設定で、一話ごとに別の時代、別の国に行くことになります。この設定はイージーですが、秀逸です。毎回ちがうドラマが展開されるのですから。ふしぎなことに、古代のギリシアやイスラエルに行っても、セリフはすべて英語だったようです。日本語に吹き替えられていましたが、元々は英語だったのでしょう。つまり科学者たちは、モーセであろうが,クレオパトラであろうが、英語を使ってコミュニケーションをとるわけです。その時代は英語そのものも生まれていないと思われるのですが。しかも、なぜか歴史上の有名人に出会ってしまうのが、ご都合主義まるだしです。でも、そこがワクワクさせるツボですね。
タイムトラベルものがうけるのは、「過去を変えられたら」とか「未来を知ることができたら」とかが人間の願望の一つだからでしょう。昔あった、ドリフの「もしものコーナー」も同じかもしれません。「もしも威勢のよい銭湯があったら」とかいうテーマで、いかりや長介がずぶぬれにされて「だめだ、こりゃ」でしめるやつです。あれは、単純明快で、多くのコントの原点とも言えるものでした。理屈ではなく設定だけで笑わせるのがすごい。泣かせるのと笑わせるのとでは、どちらが楽かという話がよくありますが、やはり笑わせるのは難しいでしょう。笑わせようとして笑ってくれないと、いやな雰囲気になって、ますます笑えなくなります。
その点、合格祝賀会のお客さまはよいお客です。みんな笑ってやろうと待ち構えていますから、しょうもないダジャレでも笑ってくれます。中島らものホラーをベースにしたのをやったことがあります。ホラーと行っても中島らもなので初めのうちは笑わせるのですが、だんだん怖くなってくるというパターンです。合格祝賀会ということでホラーテイストをおさえぎみにしたせいもあって、かなり笑ってくれました。元ネタは「こどもの一生」という作品で、何度か上演されています。私はおそらく初演のものを見ていると思います。出演者はだれだったか。たしか升毅や生瀬勝久が出ていました。「山田のおじさん」役は古田新太ですね。そのときにはたいしたことのない配役のように思えても、何年かたつと実はすごかったという場合があります。「ルーキーズ」というドラマでは、佐藤隆太、佐藤健、市原隼人、桐谷健太、城田優、中尾明慶、小出恵介らが出ていましたし、ある洗剤のCMでは、松坂桃李、菅田将暉、賀来賢人、間宮祥太朗、杉野遥亮が出ています。このCMが初めて流れた頃には、そこそこ売れ出した若手俳優という位置づけだったのに、今や主演級になっています。
「こどもの一生」は上演のたびに配役も変わりましたが、歌舞伎でも当然のごとく変わります。「東海道四谷怪談」を仁左衛門と玉三郎でやる、ということになれば集客力はいかばかりか。去年再演 されたのが、なんと38年ぶりの「孝玉コンビ」復活だったのですね。東京での上演だったので、最近になってテレビで見たのですが、…二人とも年をとってしまいました。それでも、玉三郎のお岩はやはりよかった。お岩さんをやるときには、「お岩稲荷」にお参りに行くことになっているらしいですね。お岩さんは実在の人物で、この神社にお参りに行かないと祟りがあるのだとか。お岩さん、さすがに日本最強の幽霊です。玉三郎も行ったのかなあ。