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2019年5月12日 (日)

130超えると高めです

世間に名前が知られている忍者も意外にいるようで、伊賀には「上忍」と呼ばれるランクの高い忍者がおり、服部半蔵、百地三太夫、藤林長門守ということになっています。この藤林長門守の子孫が書いた『万川集海』という本には忍術名人の名前が残っているそうです。下柘植の木猿とか下柘植の小猿という名前は「猿飛佐助」のモデルかもしれません。音羽の城戸という忍者は信長の狙撃を何度か試みています。信長を狙撃しようとしたのは楯岡の道順だという説もあります。この人は伊賀崎道順とも言って、城に潜入して火をかけ、大混乱に乗じて城を落とす名人だったと言われています。どんな城でも「伊賀崎入れば落ちにけるかな」と詠われたとか。

飛び加藤こと加藤段蔵はかなりあやしげです。風魔小太郎のもとで技を磨いたあと、上杉謙信に仕えようとします。技を披露したところ、謙信はその技のあまりのすごさにかえって危険を感じてしまいます。その後、武田信玄に仕官するのですが、信玄を暗殺しようとしてつかまり、首をはねられたということになっています。どこまで本当かわかりませんが。有名な話としては、「牛をのむ」というのがあります。あるとき、段蔵は大きな木に牛をつないで、道行く人々に、「今からこの大きな牛を飲み込んでみせる」と言います。牛のうしろから近づいて、大きく息を吸い込むと、牛は見る見るうちに吸われていき、最後の一飲みで完全に牛は消えてしまいました。ところが、木にのぼっていた男が、「だまされるな。布をかぶって牛の背中に乗っているだけだ」と叫び、術は破れてしまいます。今で言うイリュージョンですかね。コーラを一気飲みして、徳川15代将軍の名前をゲップをせずに言い切る、というのじゃなくて、プリンセス天功とかの。ひょっとしたら集団催眠かもしれませんね。

ただ、このあと、飛び加藤が瓜の種をまいて扇で仰ぐと、すぐに芽を出し、茎が見る見る伸びて、花を咲かせて実をつけます。そして小刀を取り出して、実を茎から断ち切ると、木の繁みから男の首が血をしたたらせながら落ちてきたというお話。これはどういうからくりなのでしょうか。このへんの話は司馬遼太郎も書いていたような気もしますが、白土三平の絵の記憶もあるのです。海音寺潮五郎の『天と地と』では、ふつうの忍者として描かれていました。謙信を石坂浩二、信玄を高橋幸治、信長を杉良太郎が演じた大河では、米倉斉加年が飛び加藤をやっていました。ちなみに、この人は大河の常連で、戦国ものでは竹中半兵衛、今川義元、幕末ものでは桂小五郎、佐久間象山、板垣退助をやっています。著書も多く、『おとなになれなかった弟たちに…』は国語の教科書にも採用されていました。絵もうまくて、角川文庫の夢野久作の気色の悪い表紙はこの人の描いたものです。

果心居士となると、忍者というより幻術師とでも言ったほうがふさわしいようです。まさにイリュージョニストですな。松永久秀の前でやったことが有名です。久秀が、「自分は多くの修羅場をくぐってきて、もはや恐ろしいと思うことはない。そういう自分に恐ろしいと思わせることができるか」と言ったので、すぐさま数年前に死んだ久秀の妻を出現させたと言います。果心居士は秀吉の前でも、秀吉が誰にも言ったことのない悪行を暴いてしまいます。「科学的」に解釈するなら、久秀も秀吉も催眠状態になっている可能性がありますね。全部自分の脳内で起こっている出来事にすぎないのかもしれません。しかし、秀吉は怒りくるい、捕らえてはりつけにしようとします。すると果心居士は鼠に姿を変え、それを鳶がくわえて飛び去っていった、とか。小泉八雲も、果心居士が絵の中から呼び出した船に乗って、絵の中に消えていったという話を書いています。

万城目学の『とっぴんぱらりの風太郎』には、因心居士が登場しますが、ひょうたんの中に住む一種の妖怪のように描かれています。対になるもう一つのひょうたんには果心居士が秀吉によって閉じ込められています。因心居士は主人公の忍者風太郎を使って、大坂城の中にあるひょうたんをさがしに行くというストーリーです。ラストの部分で、風太郎は仲良くなった秀頼の子供を連れて大坂城を脱出します。『プリンセストヨトミ』につながるような終わり方です。この話の中では果心居士も因心居士も、姿を見えなくする術とか、いろいろな術を使います。イメージ的には仙人という感じでしょうか。

仙人といえば中国が本場ですが、三国志に出てくる張角も仙人のイメージがあります。黄巾の乱を引き起こした太平道という宗教組織は、道教の一派ですからそれも当然です。宗教とは関係なさそうな関羽でさえ商売の神様になるわけで、義理堅く、裏切らないイメージが商売と結びつくのでしょうか。関羽は美髯公とも呼ばれました。「ひげ」で有名ですが、「髯」というのは「ほおひげ」ですね。「髭」は「口ひげ」、鬚は「あごひげ」です。こんな区別をわざわざするのはひげに関心がある証拠ですが、英語でもほおひげは「ウィスカーズ」、口ひげは「マスターシュ」、あごひげは「ビアード」というように使い分けます。ヨーロッパの人もひげに関心があったのでしょう。

「青ひげ」のひげは「髭」でしょうかね。ペローやグリムが書いていますが、日本でも「ひげ」のある男を主人公にして小説が作られています。山本周五郎の『赤ひげ診療譚』ですね。この赤ひげ男は医者です。映画では三船敏郎がやりました。三船も最近の子供たちは知らなくなっていますが、胡麻麦茶のCMに出ている「先生」のモデルになった人ですね。黒沢映画の主役として海外でも人気のあった人です。『スターウォーズ』が黒沢のパクリ、いやオマージュであることは有名で、ルーカスは三船を使いたくてオファーするのですが、三船はB級映画だと思って断ってしまいます。たしかに一作目は「B級」レベルでしたが、なんと世界的に大ヒットしてしまいます。なぜ、あのレベルの映画がヒットしたのか不思議なのですが。出ていなくても「世界のミフネ」であることには変わりありません。世界に名前を知らしめた最初の作品が『羅生門』です。ただし、これは芥川の『羅生門』よりも、むしろ『藪の中』の映画化ですね。有島武郎の息子の森雅之や京マチ子との共演です。京マチ子は溝口健二の『雨月物語』でも魅力的でした。怪談というほどのものではありませんが、人間の「情念」を感じさせます。モノクロだから、よけいに雰囲気が出ているような。

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