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2019年8月10日 (土)

「どあほ」の「ど」は「弩」ではない

純粋な和語なのに外来語のように思われていることばもあります。「すばる」なんて「統ばる」ですね。「プレアデス星団」と言うと近代的ですが、「むつらぼし」と読む「六連星」という言い方も昔から使われています。星の名には古いものがあり、「北斗」なんて『曽根崎心中』にも出てきます。「北斗はさえて影うつる星の妹背の天の河」というフレーズですね。千葉周作は北辰一刀流の始祖ですが、「北辰」も北極星のことです。道教では、北辰は天帝と見なされました。さらに、仏教と結びついて、「妙見菩薩」とも呼ばれます。「妙見」というのは、「善悪や真理を見通す」という意味でしょう。千葉氏は妙見菩薩を一族の守り神としていたそうです。シリウスが「天狼星」と呼ばれるのは、おおいぬ座にあることを踏まえての命名なのでしょうか。中国経由のことばも多く、星座の発想も外来のものでしょうが、陰陽師の記録に、天体観測の細かい報告をしたものがあり、そういう名前が出てきます。中には、中国にはない日本独特の命名をしたものもあるようですが、昔から日本人は外来のものをとりいれるのに、あまり抵抗がなかったのでしょう。

ただ、そのままではなく、日本風にアレンジすることもよくあるわけで、カレーライスなんて外国にはなかったものですね。「洋食」と言いながら、トンカツとかオムライスとか、日本独特のものです。洋服はさすがに定着しましたが、最近ネクタイが消えつつあるようです。希の講師もクールビズということで、なんと5月から10月まで半年もネクタイなしです。この「ネクタイ」ということばは「ネック・タイ」と分解できます。「ネック」は「首」、「タイ」は「タイ・アップ」の「タイ」で「結ぶ」ということでしょう。こんな風に、一単語に見えるものでも、分解すると語源のわかるものがあります。虹を表す「レインボー」も「レイン・ボウ」で「雨の弓」と考えると、なるほどと思います。「パラソル」も「ソル」はフランス語の「ソレイユ」につながることば、つまり「太陽」で「パラ」は「防ぐ」という意味です。「パラサイト」とか「パラリーガル」の「パラ」は何なのかな。

「パラリーガル」なんてことばはあまり聞きませんでしたが、弁護士もののドラマではよく出てきて、定着したことばになりつつあります。弁護士の仕事に関する付帯業務をする人のことですね。ということは、「パラ」は「補助的」、「リーガル」は「法律に関する」という意味でしょう。『リーガルハイ』というドラマがありましたが、「ランナーズハイ」みたいに「陶酔状態にある法律家」みたいな意味の造語だったようです。最近、こういう「職業ドラマ」が盛んで、「校閲」のような地味な仕事さえ取り上げられました。この手のドラマの走りはきっと『スチュワーデス物語』ですね。「ドジでノロマな亀」という流行語が生まれました。ただし、今では「スチュワーデス」とは言わなくなりました。「キャビン・アテンダント」とわざわざ言い換えるのは「ことば狩り」のせいでしょうか。知らない間に名前が変わってしまったものもたくさんあります。特に服装、ファッション関係に多い。昔「チョッキ」と言っていたものが、いつのまにか「ベスト」になってしまい、最近では「ジレ」と言うそうな。そのくせ「防弾チョッキ」はそのままです。まあ、これはファッションではありませんが…。ことばそのものは変わらなくても、「パンツ」は昔は下着だったのに、今は「ズボン」のことです。ただし、アクセントのちがいはありますな。「パ」を強く発音してはいけません。

「縄文式土器」の「式」はなぜ消えたのでしょうか? たしかに「式」を入れる必要はなそうですが、そのせいで嘉門達夫の「東京ブギウギ」の替え歌も成り立たなくなりました。元歌は「とう・きょう・ブキ・ウギ、リズム・ウキ・ウキ、こころ・ドキ・ドキ・ワク・ワク」で、これが「じょー・もん・しき・どき、やよい・しき・どき、埴輪、勾玉、土偶土偶」になるのですが…。替え歌がおもしろいのは、元歌の歌詞を知っていて、それがどう変わるかというところにあります。メロディだけを借りてきて、元の歌詞と何も重なる部分がなければ替え歌になりません。その点、昔の歌は歌詞が覚えやすく替え歌も作りやすかったのでしょう。今の歌は歌詞を覚えにくいようです。歌詞カードなしで最後までまちがえずに歌いきったら百万円、とかいう番組がありましたが、初期のテレビなら思いつきもしなかった番組です。いわゆる「昭和歌謡」なら歌えて当然なので、まぬけな企画としてボツになっていたでしょう。

覚えやすかったのは七五調の歌詞が多かったということもあります。考えてみれば国歌の「君が代」は短歌ですし、古い童謡も七五調、五七調ばかりです。「さくら」の歌詞は七五調がベースですが、歌い出しの「さくらさくら」の部分は六音になっていて変則的です。この歌の歌詞は古いバージョンでは「さくらさくら やよいの空は 見わたす限り かすみか雲か 匂いぞ出ずる いざやいざや  見にゆかん」だったのが「さくらさくら 野山も里も 見わたす限り かすみか雲か 朝日ににおう さくらさくら 花ざかり」に変えられています。「春の小川」も「春の小川はさらさら流る 岸のすみれやれんげの花に 匂いめでたく色うつくしく 咲けよ咲けよとささやくごとく」から「春の小川はさらさら行くよ 岸のすみれやれんげの花に すがたやさしく色うつくしく 咲いているねとささやきながら」と変わり、さらに最後の部分が「咲けよ咲けよとささやきながら」になりました。古いことばはわかりにくい、ということなのでしょうが、二つめから三つめの改変が意味不明です。

昔のものはわかりにくい、ということで「ちはやふる」という歌を無理やり解釈する落語があります。その中で「竜田川」は相撲取りの名だというのですね。力士の名前はたしかに地名から来たものが多かったようです。日本の軍艦も地名がつけられていました。「大和」や「武蔵」が超弩級の戦艦につけられています。「超弩級」というのは、桁違いに大きいことを意味しますが、「弩」というのは「ドレッドノート」というイギリスの軍艦の漢字表記の頭文字です。「ドレッドノート」とは「こわいものなし」という意味らしい。アメリカの戦艦は州名をつけていますが、空母は古戦場の名前や、湾や海峡の名前、巡洋艦は都市名、駆逐艦は人名というように基準があるようです。日本では明治天皇が「沈んだときのことを考えたら人名はだめ」と言ったので、国名を採用したとか。古くは、それぞれの国にランクがあり、上位の国の名が大きな戦艦につけられたのでしょう。

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