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2019年10月 6日 (日)

なめとこ山の熊   と告知

ごぶさたしてますー。長いあいださぼってた西川ですー。山下trが書いてくれるからいいやと怠けてました。最後に書いたのは、もうおぼえてないぐらい昔です。今さらですが、少しだけ書いてもよろしいでせうか。

このあいだ小2灘クラブ特訓で宮澤賢治の『なめとこ山の熊』を読みました。宮澤賢治は、同じ小2灘クラブ特訓でふた月前にも『やまなし』をやったし、小2最レでも『月夜のけだもの』と『よだかの星』をやったばかりですが、どれもこれもすごくいい。

『なめとこ山の熊』の中に、「狐けん」というのが出てきます。この「けん」は「じゃんけん」の「けん」で、狐は猟師にやられ、猟師は町の商人にやられ(買いたたかれ)、町の商人は(そう書かれていたわけではないけれどたぶん)狐に化かされるという関係を表しているらしい。『なめとこ山』の主人公である猟師の小十郎は熊捕りの名人だけれど、町の旦那には毛皮や熊の胆をひどく買いたたかれる、町の旦那は山の中になんか行かないから熊に襲われないけど、まあ狐けんと同じだ、というふうに出てきます。

この構造は『よだかの星』に似ています。よだかはたかにいじめられてつらい思いをするんだけれど、その自分もまた虫を食べて生きていることに思いあたり、こういうまあ言ってみれば弱肉強食の世界に絶望して、最後は星になってしまいます。『なめとこ山』の小十郎もそっくりです。撃とうとした熊に、何がほしくて俺を殺すのかと訊かれて、毛皮と胆がいるんだけど、あらためてそうやってお前に訊かれると、もう熊を撃つのなんかやめて、それで食っていけなくなって死んでもいいような気がすると答えます。(わずかなサジェスチョンで『なめとこ山』が『よだかの星』に似ていることに気づいた子がいました、ブラボー!)

実際のところ、『よだかの星』のよだかとたかと虫の関係はじゃんけん的関係ではありません。じゃんけん構造になるためには、たかが虫にやられるという部分が必要なはずですが、それは出てきません。それでかどうかはわかりませんが、『なめとこ山』でも、じゃんけんらしくなるために必要な、町の商人が狐に化かされる或いはクマに襲われるという部分は省かれています。そのため、『よだかの星』との類似がより明らかになっています。

宮澤賢治には、こういう厭世的な、ペシミスティックなところがありますね。小6ベーシックのテキストで妹のトシさんの死を題材にした「無声慟哭」という詩を取り上げているんですが、これもかなり悲痛です。やはり何かのテキストに取り上げた「眼にて云う」という詩は、血を吐き続けて口も利けない状態で仰向けに横たわっている「魂魄なかば体をはなれた」語り手が、手当てをしてくれている医者に、あなたのほうから見たら(血まみれの)惨憺たる景色だろうけれどわたしから見えるのは美しい青空なんだ、という意味のことを「眼にて云う」わけですが、これはほとんど、あの世への憧憬のように読めますよね。

一方で、宮澤賢治の物語は会話がすごくおもしろい。『なめとこ山』の母グマと子グマの会話ものほほんとしていて良いし(そういえば何年か前に我が家に棲息していた高校一年生の女子と八ヶ岳でそっくりの会話をしました、「あれ、あの白いの雪やんな」「え? ちゃうで、この季節あんなところに雪あれへん」「うそ、雪やん、白いもん」「雪ちゃうって」「ほな何やねん?」「ただの白い土やろ、なんか『なめとこ山の熊』みたいやな」「何それ?」みたいな)、『やまなし』に出でくるカニの親子の会話もしみじみおかしい。兄弟の子ガニが話をしていると、こらこら早く寝ないと明日イサドへ連れて行かんぞとかなんとか言いながら父ガニが登場しますが、この父親、そんなふうに子どもをたしなめたわりには、やまなしがトボンと落ちてくると、ああいいにおいだな、何日かするとこれがうまい酒になるんだ、ついていこう、なんて言いながらやまなしをふらふら追いかけていくんです。『セロ弾きのゴーシュ』では、ゴーシュが必死でチェロの練習をしていると猫がやってきて、はい、これおみや(おみやげ)です、なんて言ってトマトを差し出すんですが、ゴーシュは、あ、それ、うちの庭のトマトじゃないか、しかも青いやつもいで来やがってとカンカンになります。こうなると、ほとんどコントですよね。きわめつけは『月夜のけだもの』です。ちょっと紹介しづらいので割愛しますが、獅子と狐と狸の会話は、かつて流行った不条理4コマ(吉田戦車とかの)みたいなおもしろさです。

『なめとこ山』は、熊が輪になって、亡くなった小十郎を見送る静かな場面で終わるのですが、アイヌの儀式にこんなのなかったっけと思って調べてみたら、やはりありました。イオマンテです。これは、人間が殺した熊の魂を神さまのもとに送り返す儀式なんですが、宮澤賢治は熊と人間を入れかえたんですね。とても印象的なシーンですよ。

ところで!

クマといえば登山ですよね。ずっと前にこちらのブログに書いたとおり、北海道で山登りしていてヒグマと接近遭遇したっていうぐらい、とにかくクマと縁があります。

さて!

この4月、残雪の燧ヶ岳に登ってまいりました。え、燧ヶ岳を知らない? そりゃ知らないでせう。登山に興味がある人以外はあまり知らないと思います。尾瀬にある山なんです。尾瀬はご存知ですよね? いやいやご存知じゃなくても全然いいんですが、「夏が来れば思い出す、はるかな尾瀬」とかなんとか歌われた、あの「尾瀬」です。群馬にあります。ちがったっけ? ま、なんせ尾瀬は、尾瀬沼と尾瀬ヶ原の二段階構成になっておりますが、まだどちらも雪で真っ白けでした。尾瀬沼もほぼ氷結してしていて、さくさくと歩いて渡れますし、尾瀬ヶ原も木道はほぼすべて隠れていて、ただの雪原でした。こちらもどまんなかを縦断させていただきました。

そんな状況なので観光客もまだ全然おらず、したがって山小屋もまだ営業を始めておらず、したがって僕はテントを担いで行くことを余儀なくされました。氷結した尾瀬沼のほとりで一泊して、翌日燧ヶ岳に登ったんですが、これが予想外に大変で。とにかく体が雪に沈むんです。ワカンという、足が雪に沈むのを防ぐための履き物があるんですが、そして私も持っているんですが(Y田M平先生にもらった)、Y田先生が「ワカン? いらん」とかなんとかアドバイスしてくれたので持って行かなかったんです。そしたらもう沈む沈む。テント担いで一足ごとに膝下まで雪に沈むとなかなかしんどい。なんていうか、すっごくイライラします。そして泣けてきます。膝下までならまだいいんですが、股下とか腰上まで沈むと脱出するのも一苦労です。経験したことのない人にはわかりにくいんですが、出せないんですよ、足。でかい登山靴にアイゼンつけてますので、出ない。どんなに引っ張っても出ない。どうするのか。ピッケルで掘り出すんです、足を。そんなことをしょっちゅうやっていたために、とうとう目的地(尾瀬ヶ原のテント場)に着く前に日暮れが近くなってしまいました。で、結局、山の中にテントを張りました。許してください、積雪の上なので自然破壊はしてません。それより、付近にどう考えてもクマのものとしか思えない足跡がたくさんあったのが閉口でした。クマは好きだけど会いたくないです。でも、楽しかったな。だれもいない山の中でテント張って。お湯を沸かしてあったかいお酒飲んで。いちばん幸せな瞬間です。

本も読みました。テントのなかで。本は必ず持って行きます。今回は、鈴木牧之の『北越雪譜』。江戸時代の越後の豊かな商人?豪農?である鈴木牧之が、雪国のことを知らない江戸の人に向けて、雪国暮らしの実情を紹介した本です。古文といっても江戸時代のものなので読みやすいし、風土的にも残雪期の山で読むにはぴったりです。というわけで、最後に、私が驚嘆した話を紹介して終わりにしましょう。

大晦日の晩、鈴木牧之が知り合いの家で歓談していると、突然、往来に面した窓から、だだっと人が飛び込んできます。雪国のこととて、雪かきした雪を往来の真ん中に盛り上げていて、そのうえを歩くようになっているんですが、件の人は、按摩とりの座頭、すなわちいわゆる盲人で、足をすべらせてしまう。で、窓を破って部屋の中に転落してしまうんです。もう、家のおかみさんはカンカンです。こんな日に、しかも今年の吉方(えほう)に向いた窓から落ちてくるなんて。とっとと帰れ、と。すると、この福一という按摩とり、しばらく思案していたかと思うと、

吉方から福一というこめくらが入りてしりもちつくはめでたし

という歌をよむんです。もちろん、こめくら=小盲=米倉、しりもちつく→餅をつく、ですし、そもそも福一という名前もめでたい。この頭の回転の速さ。福一はその後江戸に出て、出世したとのことです。

ではまた~。

いやいや「ではまた~」ではありませんでした。私が久々に記事を書いたのは、福一の話がしたかったからではなく、告知したかったからでした。

11月の終わりから12月のはじめにかけて、国語の教育講演会があります。ひさしぶりです。タイトルは、他に思いつかなければ数年前と同じ『国語の学び方・教え方』になるでしょう。内容はたぶん結構リニューアルします。よろしければお誘い合わせのうえ、おこしください。会場は、西宮北口のプレラホール、上本町の高津なんとか、そして四条烏丸教室です。そのうちHPなどでも告知されるはずです、希学園の関係部署の方に私が嫌われていなければ! 自信なし!

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